作・演出 早船聡。早船の名を知ったのは
2008年新国立劇場の「シリーズ・同時代」Vol.1
に新作「鳥瞰図」を書きおろしたのを見ていたから。
その時の 演出は松本祐子。
本作は、2102年に兵庫県ピッコロ劇団へ書き下ろしたものだそう。
それを早船の劇団で上演する。
この戯曲は、昨年の岸田戯曲賞の候補にも挙がっていた。
結果は赤堀雅秋と岩井秀人のW受賞。
早船聡はオーソドックスな台詞を書く。
それは鳥瞰図の時から変わらないのだが、
人間の描き方などが多面的になり5年間の進化が見て取れた。
「花様年華」という映画がある。
2000年の香港映画。監督はウォン・カーウァイ。
トニー・レオンとマギー・チャンの禁断?の愛の物語。
時代は1962年の香港。同じアパートに住むことになった、
この二人はそれぞれ別の人と結婚しているのだが、
パートナーが仕事が忙しく、残された二人が妖しい関係になっていくというもの。
そこで効果的に使われていた音楽が
「キサス・キサス・キサス」
という曲。早船はこの舞台でこの音楽を使用している。
このシーンを見た時に
早船聡も「花様年華」を見たに違いないと思ったが
実際はどうなのだろう?
舞台はある不動産屋のオフィス。
家族経営の不動産屋さんの社長を務めているのは長男。
長男は最近結婚し美しい妻(ともさと衣)をもらう。
二人は結婚紹介所で知り合った。
姉の長女が彼氏と別れ実家に戻って来ている。
長男夫婦は実家で姑と暮らしており、そこに長女が加わって一緒に住んでいる。
仕事が出来るアルバイトの女の子と、まったく仕事が出来ない社員の男性。
その仕事が出来なくガサツな男性にアルバイトの女の子は
いつもいらっとしている。
そこに、ヤサオトコ(=優男=死語?)がやってくる。
この男は新妻の元彼氏。
ヤサオトコはともさと衣と深く付き合っていたのだが、
当時ヤサオトコには妻と子どもがおり不倫関係だった。
仕方がなく別れともさと衣は結婚紹介所で長男と知り合って結婚する。
長男のことを特に好きでもないのに結婚してしまったともさと衣。
そして…。
というもの。
ここで先ほどの「キサス・キサス・キサス」が使われる。
ともさと衣とヤサオトコ(伊藤聡)がこの音楽に合わせて
踊るシーンはまさに「花様年華」!
印象的で素敵なダンスだった。振付は中村蓉。
そして、ここでもうひとつ描かれているのがイノチのこと。
孤独死をした老人、数十年前に家を出て行ったきり帰ってこない
この不動産屋の父親のこと。
そして、新しいイノチの誕生。
これが縦軸になり「花様年華」的な横軸と重なり合って
妖しくも素敵な舞台が出来あがった。
オーソドックスな印象があるが、それだけにわかりやすい舞台。
小顔のともさと衣の立ち姿、スタイルが美しい。