やなぎみわ という現代美術の作家が演劇を始めて数年が経つ。
東京以外の離れた場所での公演などが多く、見に行ける機会がなかなかなかった。
今回は、近場の神奈川芸術劇場で公演をするのを発見!
WEBでチケットを予約して「海の日」の昼下がりに、みなとみらい線「日本大通り」駅へ向かう。
横浜までJRで行ってみなとみらい線に乗り換える。
横浜駅はとても人が多いが、ここまで来ると人口密度も小さくなり、
ゆったりと歩くことができる。
この人数の少ない感じが横浜のいいところ。
NHK横浜放送局と同じ建物にあるKAATに入る。
エスカレーターで5階に上がると、
案内嬢のコスチュームを着た人が至る所にいて案内してくれる。
黒髪で真っ赤なルージュをつけ白い帽子をかぶっている。
これが、この舞台の導線ともなっている。
そもそも「やなぎみわ」を見たのはこうしたコスチュームを着た人たちを
撮影した写真の作品だった。
その世界がこの場所にリアルに展開されている。
案内嬢に案内されチケットの半券を切ってもらい入場する。
入場すると舞台真ん中に受付カウンターがあり、
そこにも案内嬢たちがいて、そこでラジオの受信機を受け取る仕組みになっている。
東工大の谷岡先生がいらしていた。そして、その後京都造形大の八角先生も!
そういえば、やなぎみわさんは現在、
京都造形芸術大学に在籍されていることを知った。
本作は「東京ローズ」という戦前の米国をはじめとする
兵士たちへの日本からのプロパガンダ放送を行っていたアナウンサーについてのお話。
お話は単純。連合国軍の兵士たちは夜な夜な「ゼロ・アワー」という英語放送を聞いていた。
それは魅力的な声の女性アナウンサーが英語で語り、
素敵な音楽を流すというもの。
とても洒落たラジオ番組を作っていたのである。
「FRONT」という同じく外国人兵士向けのプロパガンダ誌のことを思い出した。
あの雑誌もアートディレクションが素晴らしくしゃれていた。
戦前にこうしたコンテンツを作ることができる人たちがいたということに驚く。
本作ではその「ゼロ・アワー」にかかわった人たちが登場する。
録音技師と進駐軍としてやってきた日系米国人。
この日系米国人は驚異的な耳をもっており
声を聴くだけで「ゼロ・アワー」のどのアナウンサーだったのか?がわかる。
当時、アナウンスをしていた女性たちが終戦後すぐに呼び出され
彼の面接を受けることになった。
しかし、「東京ローズ」という女性アナウンサーは見つからない。
録音技師と日系米国人兵士はその後も交流が続く。
そのきっかけはチェスだった。
チェスの棋譜のやりとりを文通するように繰り返すふたり。
そして何十年か経ったのち、録音技師が日系米国人兵士を訪ねる。
戦後すぐと現代の二つの話が並行して進んでいく。
ラジオ放送のシーンでは実際にラジオ受信機から音声が流れて来る。
観客はそれをきき、当時の連合国軍兵士に思いを馳せる。
やなぎみわが美術も担当しているらしく
真っ白な空間がとてもスタイリッシュである。
どこを切り取っても一枚の美しい写真のように見えてくる。
真っ白な空間と真ん丸な受付カウンター
そして白と青のコントラストが強い案内嬢あるいはアナウンサーの衣装。
奥の壁にはめ込まれたシンプルな空間、
そこにある1台のオープンリールの録音機。
どれを見ても美しい。
ああ、こういう舞台があってもいいなあと思った。
あいち公演が8月30-9月1日まで行われる。