つかこうへいの戯曲。1980年あたりに書かれたものだろうか?
原題の定本「ヒモのはなし」は1982年に角川書店から出版されている。
それをポツドールの三浦大輔が演出した。
三浦大輔とポツドールはいまや大人気の作家&劇団となり、
いまでは、チケットの入手が難しくなっている。
昨年のF/Tでの公演は一瞬でチケットが完売した。
今回も人気の公演らしく補助席まで出て会場は満席。
三浦の構成と演出のうまさに感心した。
演出とは技術の側面がある。
よって演出を積み重ねれば積み重ねるほど、その技術は伸びる。
ただでさへ才能のある三浦の演出技術が、
今回のようなキャスティングで様々な俳優と組むことによって
さらに面白い効果を発揮することとなった。
あるストリッパー(渡辺万起子)とそのヒモ(リリー・フランキー)の話。
渡辺が座長を務めるストリップ劇団は全国のストリップ小屋を回って
旅公演を続けている。
大衆演劇の旅回り公演と仕組みは同じ。
そこで何を見せるかが違っているだけ。
以前、浅草のストリップ小屋に演劇のフリーペーパーの編集スタッフと
一緒に見に行ったことがある。
間近で見る踊り子さんは美しく、全身にラメを施したボディメイクをして
踊り子さんが動くとうっすらと化粧の香りがしてきたことを今でも覚えている。
一方、草津温泉にロケに行ったときに見たストリップはおばちゃんと思える?
人が開脚し、これは…。と思わせられるものだった。
ストリップというのもいろいろなんだということがよく分かった。
このストリップ座は山形、八戸、そして函館と北上していく。
座長と踊り子さん3人、そのヒモが3人、照明担当が1名という
8名からなる一座。
座長のでんでんがキラキラとしたスパンコールのジャケットを着て、
MCをするところからこの舞台は始まる。
でんでんの魅力なのか?一人芝居が延々と続くのに
まったく退屈しない。
今回、こうした延々と話が続くシーンがいくつかあるのだが、
まったく退屈せずに眠くならない。
こういう状況になる舞台は10本に1本くらいだろうか?
本作もまさにそのよな舞台の1本だった。
見ていて、まばたきをするのも惜しいような感覚になる。
つかの脚本がオモシロイというのもあるだろうが、
それ以上に俳優の持ち味を引き出したことが大きい。
特徴的なのは音声に対する極端なまでの配慮である。
駅前劇場くらいの感覚をこの大きさの劇場で出すことに三浦は成功している。
小声で話すシーンが印象的なのだが
マイクをうまくつかって絶妙なバランスで音を客席に届けていることに感動すら覚えた。
こうしたデリケートな努力を技術陣と一緒になって作り上げていく
三浦の演出には頭が下がる。
そうした細かな配慮の積み重ねがこの舞台をとても見やすくしており
観客は舞台に集中できるようになる。
また、若手ストリッパーの安藤聖が魅力的だった。
男にやさしく、そうして堕ちていかざるおえない女
。堕天使のような人につかの戯曲はきちんと光をあてる。
またヒモとストリッパーの関係がオモシロイ。
独特のねじれた関係が興味を惹く。
ねじれた人間関係を描くのはつか戯曲ではお手のものである。
どうしようもないぐずぐずとした関係の中につかは愛情を見つける。
その愛情みたいなことを三浦はきちんと見つけ出す。
非情の中を突き詰めていったところに奇妙な愛があり、
そこを描くとみている人は思わず笑ってしまうのだ。
いつもの三浦らしい激しい演出シーンもあるが、
基本、やわらかいものたちへの愛情に満ち満ちた作品となった。
後半に出て来る女子高生役の門脇麦もいい。
彼女は今度三浦が監督するポツドールの舞台の
映画化「愛の渦」にも出演するらしい。