サルマン・カーンさんはカーン・アカデミーの創設者である。
ここは「質の高い教育を等しく無料ですべての人に提供する」ということが
前提で作られたNPOである。
創設は2008年。数千本以上のレッスンビデオをウェブサイトで
誰でも見ることができるオンライン教育プラットフォーム。
月のページビューは本書によると月5400万ページに上るという。
本書ではカーンさんが、ヘッジファンドの職をなげうって
なぜこの仕事を始めたのか?ということ。
そしてカーンさんが現在の教育についてどのように考えているのか?ということ。
現状の教育システムの問題点などをカーンさんは鋭くついている。
学校関係者が聞いたら恐れをなすようなことをストレートに発言している。
例えば、夏休みなんか必要ないというもの。
昔の学生たちは夏休みに野菜などの収穫の手伝いをしなければならない
というようなことから夏休みとなっていたのだが、
今の時代はその頃とは違ってきている。
夏休みが来るまではがんばっていたのに、
走り続けることを途中でやめてしまったら
また最初からやらなければならない!それはもったいない!
とカーンさんは説く。
本書でカーンさんはプラトンの言葉を引用する。
「教育の諸要素は…子ども時代に提示すべきである。
ただし、強制してはならない。
強制されて得た知識は頭に残らない。
だから無理強いすべきではない。
幼少期の教育は楽しければよい。
そのほうが、その子本来の能力を見い出しやすい。」
という言葉。
紀元前に発言されたこのような教育を
もう一度テクノロジーの力を使って取り戻してみようとおもいたったのが
このカーンアカデミーの仕事である。
学習者がそれぞれの個性に合った学習方法で自ら学ぶ、
自ら学ぶことによって自ら「考える」ということができるようになる。
その「考える」ということが「創造性」につながるとカーンさんは信じている。
高額の年収をあきらめて、カーンさんは前職を辞め、
いまの仕事を始めた。
当初は、カーンさんの自宅のウォークインクローゼットが
オフィスであり教育ビデオの発信源であったらしい。
その後、カーンさんは存続の危機を乗り越える。
しかし、そこに彼らを支援するエンジェルが登場する。
そしてその活動は、ついにビル・ゲイツ財団の目にとまることとなる。
そこでカーンアカデミーは数百万ドルの支援を受けることができるようになり
大きく成長することとなる。
カーンさんは学生時代の同級生を招き入れる。
友人はマッキンゼーを辞め、カーンアカデミーで働くようになる。
起業家精神が息づいている米国ならではの話であるが、
こうしたことが日本でもできるようになる土壌は芽生えつつあるのだろうか?
これからのわたしたちは知識が豊富なこと、
情報が整理されあるルールの運用がうまいという
段階を超えて「創造的」な活動が求めらる時代が
すぐそこまで来ている。
それはアートというジャンルだけではない。
広告コミュニケーションや工学、生物学、企業の経営学など
すべてのものに新たなアイデアの発見とそれを実行する力が求められている。
そうした人材をいかに育てていくのか?
ということについての大きな指針を本書は与えてくれる。