宅間孝行は天才だった!
俳優として、演出家として、脚本家として。
宅間孝行が映画を撮る日もそう遠くないのでは?
多くの人が共感できる素敵な舞台に仕上がった。
映像にしかできないことと、舞台にしか出来ないことを宅間は熟知している。
その間を自由に行き来して創作活動ができるというのに驚く。
三谷幸喜や宮藤官九郎もそうなのだが、
宅間孝行にも同じようなことを感じた。
そして、宅間さんのすごいところは三谷さんや宮藤さんよりも
俳優だということ。
その長所をこの舞台ではふんだんに活かしている。
2103年のシェアハウスの話。吉祥寺から井の頭公園へ!
井の頭公園のそばにこのシェアハウスは建っている。
いまでこそシェアハウスは普通になったが、10年前には考えられなかったスタイル。
10年経つと世界は劇的に変化することがこれだけを見てもわかる。
宅間はこの舞台を何と60年後の2073年の
世界と並行して描き出す!
宅間孝行と田畑智子はこのシェアハウスに住む仲のいいカップルである。
宅間はレストランで料理人をしながら、空き時間で小説を書き文学賞に応募し続けている。
田畑は彼の恋人。関西弁がチャーミング。さすが京都出身!
宅間とのかけあいがいい。
二人は、将来の結婚を考えているのだが、田畑には持病があり、
宅間に結婚を切り出せないでいる。
そこに2073年の未来から、この二人のカップルの息子(中村梅雀)とその妻(柴田理恵)が
タイムマシンでやってくる。
彼らの後を追うようにやってくる、科学者のたまちゃん(市川由衣)。
奇妙な銀色のコスチュームを来たおじさんとおばさんとお姉さんが
このシェアハウスにしばらく同居することになる。
やりすぎか!と思うほどのギャグ回しと、ある種
強引なストーリー展開に唖然としつつも、その強引さを上回る感情が観客を襲う。
そこには宅間が描く人間の根源的なテーマが描かれている。
それは家族であり、男女の関係であり、夫婦であり、隣人である。
そうして関係してきたすべての人に向けて愛を注ごうと書かれた
舞台のような気がしてならなかった。
決して、舞台の興行はエンタメビジネスとして割のいいものではない。
しかし、その非合理的な中に大切なものがあるということを
宅間はじめ出演者みんなが共有して舞台に向き合っている。
本当に大切なものは何なのか?
劇中でも歴史を変えてしまうほどの情熱を見せつけられ
舞台は一体となった。
そして、俳優宅間が演じているからこそできることがこの舞台にはある。
宅間自身が演じながら、途中で明らかにアドリブと思えるような設定を共演者に投げかける。
投げかけられた柴田理恵と中村梅雀は戸惑いながらも、
そのアドリブを楽しみ、観客はその一期一会を楽しむ。
これは、宅間自身が脚本家であり演出家であり、
その場で俳優としてセリフを発せられるからできることだろう。
実は、関西(特に、大阪)の劇団には、
こうしたアドリブをやるところは少なくないが、
東京を中心とした劇団(ユニット)でここまでアドリブをやるのは少ない。
また、この舞台ではオープニングと劇中、そしてエンディングで
無声映画のような映像が流れる。
時代は2073年。
多部未華子が映像部分にだけ特別出演をしている。
彼女は、NHKの朝の連続ドラマ「てっぱん」の共演者!
映像と舞台とアドリブとライブが混然一体となる珍しい舞台。
観客を笑わせながら、宅間は
人間の根源の気持ちに迫る「葛藤」をきちんと描きだす。
このバランス感覚が宅間孝行の素晴らしい才能と言えるのでは?
田畑のさわやかでいじらしく切ない演技がいい。
そして中村梅雀と柴田理恵の存在感がいい!
27日まで。その後、全国で公演がある。