2013年9月30日発行。
この時は、もうすでに是枝監督の映画「そして父になる」はカンヌ映画祭の
審査員賞を受賞していた。
受賞の数か月後に本書が発行されるという絶妙なタイミング。
是枝さんが何かに連載されたいくつかのエッセイをまとめたもの。
是枝さんのものづくりに対する思いと、
世界を人をどのように見ているのか?ということがわかりやすい言葉で伝わってくる。
一度だけ是枝さんとお話したことがある。
釜山映画祭にあるきっかけがあって参加させていただくことになった。
東北新社の配給部も出展しており、ブースに立ち寄ったりしてみた。
そして、主催の方の紹介で関係者が集まるパーティみたいなものに参加した。
上野樹里さんが挨拶をしていた。石井克人監督とばったり。
そして、妻が是枝監督のことを知っており、たまたまそこに居合わせたという偶然で
少しだけお話をさせていただいた。
「誰も知らない」を見た割とすぐ後だったので、
あの映画の話を少しだけさせていただいた。
とても誠実で丁寧な方という印象だった。
テレビマンユニオンのマネージャ―さん?と名刺交換をさせていただいた。
本書はその時にお話しした是枝さんと同じ印象を感じさせてくれた。
誠実で正義感があり丁寧。
人と人が深くつながる仕事を長年されている方だからこその文章だなあ!と思った。
ドキュメンタリーにしろ劇映画にしろ、その「つながる」ということが
とても深いレベルで行われる。それに是枝監督は向き合い続けている。
大変な気を使い、大変なエネルギーを使っていらっしゃるのだろう。
本書で特に印象に残ったのが是枝さんの追悼文だった。
TVCMの制作会社でもあり、是枝さんの映画の初期から出資し、
応援してくれた安田さんというプロデューサーへの追悼文。
僕自身の職業と重なるのでとても興味深く読んだ。
少しだけ引用させていただく。
クランクインしてしまうと「もう俺の仕事は終わったから。
俺は脚本作ってキャスティングしてる時が一番楽しいんだ」と言って、
あまり撮影現場には訪れませんでした。
来ても長居はしません。
それでいて「ワンダフルライフ」の時などは陣中見舞いの翌日に
コーヒーメーカーが新しく現場の隅に準備されている
―そういう目配りをさりげなくされる人でした。
このように、是枝監督は人に向き合い、作品を創りつづけて来ている。
その彼の根っこみたいなものが
本書を読むとうっすらと見えてくる。
やわらかな文体の後ろから。