原作:マーク:ハットン、脚本:サイモン:スティーブンス、上演台本:蓬莱竜太、
演出:鈴木裕美。
出演、森田剛、小島聖、西尾まり、久保酎吉、入江雅人、木野花 ほか。
この舞台の成功の理由はプロデュースにある。
森田剛主演の舞台を鈴木さんに演出してもらおうと依頼する。
そして鈴木さんは純粋にそれならこの原作の演目がいいと、
そしてそれを日本に置き換えてやるといい。日本での上演だからね。
上演台本は蓬莱竜太さんにお願いして、
共演者は舞台を愛する演劇人である俳優たちを揃えたい。
通常の制作プロセスで言うと、スケジュールが…。予算が…。
などといろいろな問題が起きて、当初の思い通りにはいかないものである。
しかし、この舞台は演出家鈴木裕美さんの制作当初の思いを次々と実現させていった。
プロデューサーの立場である人の熱意と誠意と努力のたまものかもしれない。
本作の原作は2003年に早川書房から出版されている。
出演されていた小島さんが、原作もとても面白いとおっしゃっていた。
2012年に本作はロンドンのウェストエンドで上演されている。
サイモン・スティーブンスの脚本がいい。
鈴木さんはこれを実際に見ていて森田剛がこの男の子の役をやるといける!
と直感されたのだろう。
そうしてすべてのお膳立てが整って素晴らしい舞台が出来上がった。
静岡の地方都市が舞台。
そこに自閉症(アスペルガー症候群)の15歳になる、天才少年が父親と暮らしている。
夜中に近所の犬が惨殺されているのが発見される。
少年はその犬殺しの犯人を見つけようとして捜査を始める。
森田君が迫真の演技。
ああいった演技にしようと決めるまでとても試行錯誤があったに違いない。
アスペルガーの症状がある人特有の、即物的なものの言い方。
そして論理的な思考方法。そういった要素がきちんとセリフや演技の中に盛り込まれている。
少年の母親はある日、彼をおいて他の男と駆け落ちする。
そして母親は東京の江戸川区、西葛西に住む。
父親は少年と二人で暮らす。
そして、隠されていた真相が舞台が進むにつれて明らかになっていく。
謎解きの要素と少年が母親に遭いに初めて新幹線に乗って
パニックになりながらも西葛西のアパートに到着する。
この冒険物語も観ていてワクワクする。
ミニマルな小道具で駅の改札や列車の中などを表現する演出がいい!
森田剛演じる少年をずーっと見守り続ける人がいる。
小島聖演じる学校の先生。
彼女は森田剛の理解者として、いつも彼を見守り寄り添う。
しかし決して近づきすぎないし、また離れすぎもしない。
学校の先生は子供にとって人生の通過点でもある。
数年間をともに過ごし、彼らは旅立っていく。
ポニーテールでメガネというキャラの小島聖は、
先生としてじーっと見守るだけ。
森田剛が先生とずーっと一緒にいたい!というシーンがある。
それを、小島聖先生はたしなめる。「わたしはあなたのおかあさんじゃないのよ。」
森田少年は現実を受け入れなくてはいけない。
そのキラキラした純粋なるものを見つめつづける先生。
その純粋な才能を森田少年は数学の検定試験を受けることによって発揮する。
しみじみとした人生の滋味があふれる秀作となった。
宇宙の始まりの天体物理学的な表現
数学の乗数や素数の表現がリリカルで美しい。