青年団の松井周、作・演出の作品。松井はこれで3度目の作・演出となる。
僕は初見。ある共同体の中に所属していると、そこには独自のルールがあり、
そのルールを誰も可笑しいだとか、変だとか思わなくなる。
何故ならば、そのルールを疑わず、考えず、受け容れることが
その共同体に居るのに一番楽だから。
部族の風習などもこのような感覚から発生しているのだろう。
今回は共同プロジェクトなので文学座の役者さんも参加している。
ポツドール主宰の三浦大輔も見に来ていた。
これを見に行ったきっかけは
舞台を本当にたくさん見ている方からのメールだった。
大体こんな内容だった。「『地下室』ご覧になりました?
私には耐えられなかった。耐え難いい空気が舞台上を支配し
その状態が続くのです。それは私にはあまりにもきつかった。」
あのSさんがと思った。露悪的な舞台なのだろうか?
いてもたってもいられなくなり、ついに時間を作って小竹向原まで足を伸ばした。
地下鉄有楽町線に乗って、「池袋」駅をこえて三つ目が「小竹向原」である。
4番出口を出ると、駅前にはなにもない。商店街のかけらもない。
あるのはスーパーマーケットとコンビニ、
ファミレスのジョナサンにドラッグストアと駅前本屋くらい。
仕方がないので、腹ごしらえにジョナサンへ。
カレイの煮付け膳とドリンクバー。
ゴルフ練習場の間を抜けると一軒家の地下が劇場になっている。
小さな螺旋階段を降りると劇場である。
100人も入ると一杯になってしまいそうな劇場。
舞台は、自然食品店の地下室。
主力商品の「水」が置かれ、真ん中にはドラム缶を改造したような
大きな「水」の濾過製造器が置かれている。
そして上手奥に「PRIVATE」と書かれた小部屋がある。
濃密な独特な空気感を松井周は作り出す。
自然食品という高邁な理念をもった、胡散臭い商売。
その矛盾した構造が透けてくる。
また、この会社=お店は共同体構造を持ち、家族的ではあるのだが、
ある種、宗教がかっている。
店員同士をあだ名で呼び合い。店長は父で、店員の一人はママさんと呼ばれている。
おお、あるあるこんな共同体と思わせる批評性がここには、ある。
健康食品の販売会社などにある、人間の弱いところに入り込んで、
暴利を獲得する構造。
自分のところで作っている「水」にいったいいくらの値段がつくのか?
アフリカから密輸している胎児の胎盤から
化粧品をそんなに簡単に作れるのか?
などなど疑問は新たな疑問をよぶのだが、
このようなことを、しているところが実際にあるかもしれない
というイメージは僕たちの中に確かにある。
だから見ていていやーな気分になるのかもしれない。
新興宗教にも似た構造、「イエスの方舟」や「オウム真理教」などを想起させる。
弱い心を救済するのは、こんなことではないのだという批評性が
逆に舞台の印象を強くする。
後味の悪さは、現在の日本の状況につながっている。
そういう意味でも刺激的な舞台であり、
舞台でしか出来ないことを、きちんとやっている志の高さに感銘を受けた。
