イキウメ新作にして、新たな表現が。
それにしても作・演出の前川知大は、人々の共同幻想を描くのが上手い!
ある集団に属した人々がどのような「共同幻想」を抱くのか?
というようなことをいろんな手法で描き出す。
今回も、そうした共同幻想を描き出すと言う意味では同じなのだが
今までのイキウメで描く描き方と少し違う表現のような気がする。
いままでは、物語性を強く意識してそれを見せるというやり方だったのが、
その物語を少し解体してシーン、シーンを俳優たちの身体とキャラクターを
意識して再構成している。そんな感じ。
演劇ならではの俳優たちの同じような動きの繰り返し。
その反復の中に日常性が潜むということを今回、前川は大胆に試行する。
それを、どうとらえるか?ということで
観客にとっての印象は違ったものになるのでは?
しかし、この舞台には、そのさらに奥にむかって
人生を透徹しようとする視点がある。
先日、誰かがフェイスブックでシェアしていたのだが、
「死ぬ前に後悔しないために」みたいな題名で、
人が死ぬ時に、こうしとけばよかったということがいくつか書かれており、
その中の一つに
「自分に正直に生きたのか?」
と思う。というような意味のことが書かれていた。
この舞台を見ている時に、このことを思い出して仕方がなかった。
今回の舞台では俳優の浜田信也が圧倒的だった。
彼の半生がここで描かれる。
彼の横にやってきて、「お前本当にそれでいいのか?」と
問い続ける道化師の安井順平。
浜田は道化の安井にパンツ一丁裸一貫になって考えてみろ!
という意味の元、彼の名前を「汎一(パンイチ)」とした。
その裸一貫の浜田が
生まれた赤ん坊の時から、小学生、高校生、そして会社員へと
成長していく姿が描かれる。
赤ん坊では家に家族や友人が集まっている風景、
そして小学生の時にはポートボールをやっている汎一たちの姿、
高校では部活でアップとストレッチ(と言ってもラジオ体なのだが)
を繰り返す部員たち、
そして会社ではコツコツと仕事をし着実に出世していく会社員を演じる。
この会社での出世競争を描くシーンがとても印象に残った。
黙々と集団の中で脇目もふらず懸命に過ごす「汎一」に
「道化」は問い続ける「お前、それで本当に面白いのか」
「それで、本当にいいのか」。
まるでわけもわからなく
秘密情報保護法や集団的自衛権などを受け入れて
それに従い進んでいく私たち国民を表しているのか?
全体主義国家への強烈な皮肉のようにも感じ、
前川さん特有の恐ろしさがじわじわと沁みてくる舞台となった。
いままでのイキウメと一番の違いは
同じようなシーンの反復を何度も挿入するところ。
その繰り返しから何を感じるか?
今回、新たなキャストとして橋本ゆりか、澄人が加わり、9人の舞台。
自分の人生を振り返り「本当にそれでいいのか」という
もう一人の存在を意識して生きなきゃな?と少し思った。
12月14日まで。その後、大阪公演がある。