ミヒャエル・ハネケという監督の特集上映の一環。
ミュンヘン生まれで、現在オーストリアに住んでいる。
彼の、名前をすらまったく知らなかった。
舞台などをしたのち、この作品が彼の、長編映画デビュー作となる。
オーストリア映画というものをもしかしたら初めて見たのかもしれない。
実は、この映画はディレクターYさんが強力に薦めてくれたもの。
あのYさんが薦めるのならと思って、ゴールデンウイークに行こうとしたのだが、
タイミングが合わず、諦めていた。縁とは不思議なものである。
連休中は、ハネケの映画には長蛇の列が出来て、毎回、立ち見だったらしい。
評判が良かったので、追加上映が決まった。
その情報を何故か知ることになる。不思議なものである。
毎週、「ぴあ」を買うようなことはしない。
どこからこの情報を知ったのかは明らかではないが、
インターネットが引き合わせてくれたのは確かである。
映画は、3年間の家族を淡々と追ったもの。
父と、母と、小学校高学年くらいの娘。
この映画は実話を基に作られたらしい。カメラは彼らの日常を淡々と描いている。
最初、面白いのは、登場人物である家族の肖像が見えないように
撮影されていること。
あまりにもその撮り方が延々と続くので、ミヒャエル・ハネケの意思を感じる。
映像は抑制されてはいるが,美しい。
いろんな生活グッズなどのクローズアップショットが積み重ねられる。
目覚まし時計のアップ。
食卓の食事風景をテーブル上だけ切り取る。
車のイグニッションキーのクローズアップ、シフトレバーのクローズアップ。
この映像の仕組みをどこかで見たなと感じた。
ああ、数年前にカンヌ国際広告祭で金賞を受賞した、
イギリスのCM「EVERYDAY」と似ていると!
HONDAのCIVICの広告であり、
HONDA UKの企業広告でもある。
朝起きて、車で通勤し、帰宅して夜寝るまでの日常が、
クローズアップショットだけで構成されている。
ワイデン&ケネディ ロンドンのクリエイティブスタッフは
この映画からあのCMのアイデアを触発されたに違いない。
この映画はある種、観客に考えることを強制する。
考えながら見ないと、「退屈」な映画として認識されてしまう危険性をはらんでいる。
家族は夢のような「七番目の大陸」に移住しようと考える。
映画では「オーストラリア」に移住しようという家族として語られる。
しかし、彼らにとっての「七番目の大陸」は、実は。
というところで、衝撃的な結末に至る。
ある時点でその結末は予想されるのだが、
いや、その結末に至る空気感が実は最初から映画の底を、
見えない地下水のように流れていることに見終わってから気づく。
何故、このようなことが起こったのかを僕たちは劇場から出ても
延々と考えさせられることになる。
また、ディテールの積み重ねが、重みを増すのだということを改めて感じる。
例えば、オーストリア紙幣を破って水洗トイレで流すシーンが延々と繰り返される。
その前に、銀行で全財産を降ろすシーンがあって、
そのシーンを想起させ、リンクさせる。
これは、僕にとって忘れられないシーンになった。