玉田真也作・演出。玉田は今回は出演せず演出に徹している。
8人の俳優が出演している。場所はある地方の都市だろうか?
そこのスナック?か何かの休憩室が舞台となっている。
数十人しか入らない劇場の手前にその休憩室が大きく張り出しており
一番前の観客席と舞台は1メートルも離れていない。
そんな濃密な中での人々の交流が描かれる。
ここの店長は木下崇祥。そこで働いている29歳の女性店員、菊川朝子。
菊川の彼氏であり店長の弟の吉田亮。
吉田は東京から戻って来て数年間なにもせずただぶらぶらと
彼女の部屋に居てひがな一日を過ごしている。
店員のとだっちと呼ばれている大山雄史。
そこに2日前に新人の飯田一期が入って来た。
明日でここで働いていた女店員の島田桃依が辞め自分の店を開くらしい。
あさっては島田の送別会をやろうというその日の夕方からこの舞台は始まる。
ぶらぶらとしている弟は楳図かずおの「漂流教室」を読んだり
ゲームボーイで「ドラクエ3」をしたりして時間をつぶしている。
弟の吉田は東京からこっちに戻ってきてからの数年間まったく働かず、
彼女は愛想をつかしかけている。
その彼女に言い寄る店長。
店長と彼女は時々逢うようになって
いまは、男女の関係となっている。
吉田亮はそれに気づいているのか気づかないのか?
ただただ日々を自堕落に過ごしている。
その何気ない日常の会話が淡々と描かれるのである。
まるで、その休憩室に一緒にいてお話を聴いているような感覚になる。
そのリアリティの設定が絶妙である。
細やかな演出と俳優の技術に裏打ちされたものなんだろう。
そして玉田はこの個性的な俳優たちのことを活かす形で戯曲を練り上げていったのだろう。
自然で破たんがなく、舞台なのかお茶の間にいるのかわからないような感覚になる。
吉田亮がぶらぶらしているのを見ていると
彼女と同じようにええかげんにせんかい!と言う気持ちになってくる。
吉田は岩崎君(成瀬正太郎)と7年前?だったかに
東京で居酒屋を始めて一発あてようぜと勇んで上京したのだった。
その岩崎との上京前のこの街でのことがときどき挿入される。
夢を抱いて大儲けしようぜ!と吉田と成瀬は酒を飲んで語り合う。
同じ場所が暗転することによってスナックの休憩室になったり、
7年前の吉田亮の部屋になったりするのが極めて演劇的。
そして、結局数年してその居酒屋はダメになり、
理由は語られないのだが岩崎君(成瀬)は死んでしまった。
そこに何があったのか?は語られない。
観客が想像するだけである。
そして、その想像とともに観客は吉田は
どのような思いでぶらぶらと日々を過ごしているんだろうと想像するのである。
この本当に「ふつうのひとびと」の日常を丁寧にすくって
こうした舞台にしているのを見て、
これって小津安二郎なんじゃないか!と思うのだった。
そこからしみだしてくる人生の滋味みたいなものが見えてくる。
少年のように見える玉田真也の姿が老成した名監督と重なった。
終演後、小竹向原の地元の方が集うカジュアルな名店、
蕎麦の「長寿庵」で一杯飲んでつまみを食べ、
蕎麦を食べて帰宅した。26日まで。