川本三郎が「新潮45」に連載したものをまとめたもの。
「新潮45」の読者と昔の日本映画のファンとかぶるのか?
成瀬己喜男だったからなのか?
それとも川本さんの趣味が色濃く片影されたものなのかはわからない。
が、川本三郎がこの映画監督と彼の作品が大好きだ!
ということがよーく伝わってきた。
私も何年か前に京橋のフィルムセンターで成瀬己喜男の特集上映が行われたとき
何度も通ったことを思い出した。
フィルムセンターに行くと映画ファンはこんなところにいるのか?
とそのすごさに驚く、
特に65歳以上はシニア料金となっており半額近くで見られるので、
ここは平均年齢70歳を越えているのでは?しかもほとんどが男性!
というか、おじいさん。
という状況にときどき遭遇する。
学生は、フィルムセンターと提携している学校の生徒ならば
無料で見られるシステムがあるので、映画の好きな若者たちは
ぜひ、行ってみてください。
東北新社の映像テクノアカデミアにも毎回、
フィルムセンターから特集上映のプログラムのチラシが送られてきて、
1階のロビーに置かせていただいております。
以前、映画監督の行定勲監督にお仕事でお世話になったことがあった。
その時に映画の話になり、行定監督が成瀬己喜男が好きで
その中でも「浮雲」が好きだ!
というお話を聴いたことがとても印象に残っている。
僕もちょうどその前に成瀬己喜男の特集上映で
成瀬作品をみていたのでとてもシンパシーを感じた。
確かに「浮雲」は傑作である。
男女の悲恋が場所を移動しながら綴られていく。
本作でも「浮雲」に関しては独立した章を立てて、
詳細に映画のことを川本さんが検証している。
では、この本は成瀬己喜男の映画を見ていないと面白くないのだろうか?
いえ、そんなことはない。
川本さんはそうしたことに配慮して、短い文章を連続させて
簡潔にストーリーを記述しながら成瀬己喜男の世界を語るという
やり方にトライしている。
映画を見ていないと
ちょっと読むのに集中力がいるかもしれないが、
未見の作品について書かれている場所でも、その魅力は十分に伝わってくる。
成瀬己喜男はまた東京の新富町、築地、佃などの下町や路地裏を丁寧に描いている。
そういう意味ではブラタモリ的なものが好きな方にも
とても面白い映画論集ともなっている。
成瀬は戦争前も戦時中も、戦後も一貫して
小市民のつつましい生活を描きつづけてきた。
それ以上でもなくそれ以下でもない。
観客に想像させる余韻を残しつつ劇的に多くを語ることは決してしなかった。
という川本さんの文章にとても共感した。
個人的には成瀬己喜男作品は演劇で言うと、
平田オリザの描く劇世界と近い何かを感じるのだが
みなさんはいかがでしょうか?
抑制されたものの内側に何かがある。
その何かをいくつもの例を用いて川本さんがひもといてくれる。
川本さんが成瀬作品を面白いと思うようになったのは
40代を超えてからだったというのも共感するものがあった。
自分がもう若くないと意識した頃からと川本さんは書いている。
読み終わって、永井荷風と林芙美子の本を読んでみたいと思った。
そして脚本家の水木洋子のシナリオも。