作・演出、誌森ろば。
誌森さんのここ数年の劇作家としての活躍は目覚ましいものがある。
ストレートに課題に向き合い、社会的なテーマを丁寧にきちんと描いている。
ここまでのレベルの劇作をするのは並大抵のことではできない。
膨大な時間を使って資料にあたり、そして自ら考えて創作する。
本作にはその誌森さんが全力を傾けた結果が出ている。
本公演の「無頼茫々」は再演だそうである。
初演を見なかったので初観劇。
初日だったのにあまりの完成度の高さ。
そして観客からは3度のカーテンコールが!
拍手が鳴り止まず、最後のカーテンコールでは
拍手の途中に係りの方がやってきてこれで本公演は終わりです!
と挨拶をするような状態だった。
現在、安保法案が国会で審議中である。
そして、週末ごとに国会議事堂を初めとする場所で
市民デモが行われている。
そんな中、メディアはどのような報道をしているのか?
権力をきちんと監視していけば
真の民主主義というのは存在できるのか?
今でも、私たちは多くの疑問を抱えたまま、
この社会で懸命に生きている。
そして、真の民主主義を通して本当のしあわせをより多くの人に!と願っている。
その願いは立場が違っても実は、同じなのかもしれない。
しあわせを多くの人へということには
いろんな考え方ややり方があるというのも事実。
その複雑な状況の中で
メディアが複雑なままでなく一方通行になってしまっていいのだろうか?
誌森は、そのことを大正時代の新聞を取り上げて演劇として私たちに提示する。
私たちはそれを見て、いまの状態について考える。
そんなきっかけを作ってくれる舞台である。
大正時代には1914年に第1次世界大戦が起き、
その後1917年ロシア革命が起きる、
そして1925年治安維持法が成立する。
そんな時代に新聞社は政府や人民に対してどのような行動を取っていったのか?
というお話である。
キャストがいい!新聞社の主筆の吉増裕士、米騒動の富山?からやって来た、
新聞が大好きな青年、板倉チヒロ。
新聞社のオーナーの娘で別の新聞社で女性記者として働いている桑原裕子。
板倉の下宿先の大家でもあり洋行帰りで労働運動家になった金成均。
などなど総勢13名の俳優がスズナリの小さな舞台上を動き回る。
舞台になるのは新聞社の会議室、そして金の自宅の居間。
これが交互に描かれるのだが、その戯曲に合わせた机とスライド式の背景が
とても効果的。
何度も舞台転換するのだが、それが独特なリズムを生む。
密度が高く情報量が多いのでいきおいテンポがいい演出となった。
見ていて瞬きをする暇もないくらいの面白さとはこういうことを言うのだろう。
井上ひさしさんが生きていたら
この舞台を見てどのようにおっしゃるだろう?
あっという間の2時間5分。
カフェの女給(今藤洋子)が英語を金さんから学び、
米国に行って帰ってくるエピソードも魅力的。
20日まで。