国立の俳優の養成機関は日本ではこのNNTドラマ・スタジオしか存在しない。
給付金をもらいながら3年間みっちりと俳優修業をし、
卒業して舞台俳優として巣立っていく。
我が「映像テクノアカデミア」にも「声優・俳優科」があり
毎年3月末にシアター・サンモールで修了公演をやっている。
ということも、あり、
NNTの生徒たちのレベルはどんなものか?というのと
演出が栗山民也さん、そして戯曲が三好十郎!
ということもあって初台に向かった。
当日の夕方電話するとチケットがまだあるとのこと。
一番後ろの席が空いてた。
会場は修了公演とはいえ満席。
しかも入場料をちゃんと取って公演する。
この入場料が技術スタッフのギャラや美術や衣装の費用になるのだろう。
とてもいいのは学生券が1000円だということ。
私は通常の3240円でチケットを購入する。
1時間30分の作品。
9期卒業生の俳優たちは9名。女性6名。男性3名。
そこに過去の卒業生たちが加わって総勢14名。
第二次大戦前の東京の富豪の屋敷が舞台となっている。
美術の伊藤雅子は、何と回り舞台を利用して3部屋をそこにしつらえた。
大きな広間と女中部屋、そして長女の部屋。
ここは何人かの女中を雇っており、
舞台はそのお屋敷にキリスト教系の施設の先生につれられて
東北の寒村からやってきた「すて」という名前の女の子が
女中としてやってくるところから始まる。
戯曲がとても面白い。
現代の格差社会と同様のことが、
この時代はさらに厳しかったことがわかる。
井上ひさしがテアトルエコーに書き下ろした初期の作品
「日本人のへそ」にも通じたテーマがここにある。
そして、演出は井上作品を多く手掛けた栗山民也である。
ということは面白くないわけがない!
そして、予想以上いや素晴らしい出来に驚いた。
「すて」役の八幡みゆきがいい。
能年玲奈を彷彿とさせるそのキャラはみんなの気持ちをつかんでいた。
そして、同世代の俳優なのに演じ方や衣装で
お屋敷の奥様をやったり別の女中をやったりして年代が違って見えてくる。
「すて」が引き取られたことは、実は新聞で美談として報道されるのだが、
この富豪の家族の実情は実は・・・、
というもの。
新聞記者が居る前でその実情のすべてが明らかになり
「すて」はそこから追い出されることになる。
が、そのたくましく生きて行く庶民に寄り添った戯曲は多くの人の気持ちを打つだろう。
そのために優れた演出家とプロフェッショナルの技術スタッフが周りを固め、
丁寧に演出された。
研修所の俳優たちはそれに応えることが出来た。
男性俳優陣がやや硬い面もあったが
戯曲の展開上、難しい部分もあったのかも知れない。
しかし、「21世紀の資本」というトマ・ピケティの預言以前に、
こうした状況が私たちの国には普通にあり、
戦後なんとかそれを乗り越えて来た筈なのに。
いま、また、歴史は繰り返すのか?