東京タンバリン久しぶりの公演。
今回は工事現場の男たちの物語。
まるでTHE SHAMPOO HATの赤堀さんが扱うような題材であるのだが、
そこは東京タンバリン
スタイリッシュで清潔な感覚の舞台にまとめあげている。
舞台はある建築現場である。
実際に劇場内には工事現場用の足場が組まれており、
劇中で俳優たちが電動レンチと六角レンチをもって
パイプを止めたり足場を組んだりする。
それを目の前で行っているので
観客はひやひやどきどきしながら彼らの行為を見ることになる。
小豆沢建設という建設会社で
とび職の足場工をやっている人たちの人間模様が描かれる。
もてもての足場工の一平(松本哲也)は
広島から一平を追ってやってきた十代の女性と結婚することを決める。
彼女が妊娠したからなのだが、
出産を機に一平は実家のある宮崎に戻って家業を継ぐことを決意する。
本作ではその一平が建築会社をやめて宮崎に戻る数日前くらいまでが描かれる。
毎朝、現場に集まって淡々と足場を組み外し、そして、また足場を組む。
昼休みになると休憩し飯を食い、現場が終わると好きなものは近くの飲み屋に飲みに行く。
そんな日常が繰り返される。
現場を取り仕切っていた小豆沢建設の社長が病気になり入院する。
代わりに現場を仕切るのが橋口さん(森啓一郎)。
千葉哲也にも似た森さんは親の借金を返すためにストイックに働き続けている。
昼は自宅から持って来たおにぎりを食べ、夜はすぐに家に戻る。
いろんな職人さんの現実が会話を通じてうかがい知れてくる。
社長が入院している間、サラリーマンをしていた社長の弟(瓜生和成)が
業務を代行することになる。彼は会社員時代に偽装問題かなにかで
世間が注目することになりそれがきっかけで退社したという噂が流れていた。
現場の職人たちと社長の弟との間に緊張関係が生まれる。
社長の弟も現場を手伝うことになるのだが、
へっぴりごしで高いところが苦手なので上手く働けない。
すぐに事務所仕事があるからと事務所に戻りたがる。
そして一平が退職する前日にいきつけのスナック?で送別会をし、
とうとう退職するその日がやってくる。
この時にある事件が起きるのだが、大きなネタバレになるのでここまで。
最初この舞台の題名はこの最後の日を描いた「どんでん」かと思ってたのだが
見終わって、ああこれは「くもりぞら」という意味なのねと腑に落ちた。
私たちはほとんどの日常を曇り空の下で頑張って働いている。
日が射す時はめったにない、また大嵐や大雪もそんなにない。
ということは「どんてん」の日常をいかに生きて行くのか?
ということを問われているのかな?というような気がしてならなかった。
目の前に来た仕事をとにかく懸命にやる。
明日、死んでしまうかもしれないと思いながら懸命に目の前のことをやり続ける。
これがそもそも私たちが生きていくということの本質なのではないか?
と強く感じさせてくれたのだった。
高井浩子の演出はまたとても映像的である。
場面転換のダンスを入れたシーンは健在で、
これはある種のインサートカットが効果的に使われている例。
そして、時々挿入されるスローモーションのシーンが秀逸。
こうしたショットの積み重ねを見ると
90年代の海外のミュージックビデオなどを彷彿とさせ、
ジョナサン・グレイザーやターセムなどの作風に近いものを感じた。
また、映画監督の中島哲也さんの「告白」や「渇き」のカット割りなどを
思い出しもしたのだった。
上演時間90分。25日まで。