この劇団を始めて16年が経つらしい。
16年目にして初めて、作・演出の中津留章仁が開演前に開演前あいさつを行われた。
本人も初めてのことなので気恥ずかしい感じがした。
そして背の高い中津留さんは駅前劇場に立つと頭が天井につくのではないか?
みたいな感じだった。上演時間2時間半弱。
舞台はある小さな警備会社のオフィス。
上手に壁を挟んで応接室みたいなのがあり真ん中は執務室、
そして下手奥側には別の執務室や社長室に抜ける通路があり、
下手手前は出入口となっている。雑居ビルの高層階なのだろう。
窓を開けると町の喧騒が聞こえてきて、風が吹き込んでくる。
この会社で社長は新たな事業を始めようとする。
いわゆる民間軍事警備会社である。
日本国でそうした組織を持つことはできないが
バングラディッシュの法人と組んでバングラディッシュに
民間軍事会社の設立をと考えているのだ。
先日のバングラディッシュのテロでは実際に日本人の現地スタッフが
何人もテロの犠牲になった。
そうしたことを阻止するためには民間の軍事警備会社が必要ではないか?
と社長は考えた。それに賛成するもの反対するものが社内で対話を行う。
感情的になったりする場面もあるが、何とか理性を保ちながら
社員同士がそのことについて考え語り合う。
詳細はネタバレになるのでこれ以上は書かない。
ただ、ここで交わされている対話は
中津留章仁本人の創作の過程から出て来た言葉たちなのだろう。
ああでもないこうでもないと考えた中津留の考えが
いろんな登場人物のセリフとして語られる。
右に左に前に後ろにいったり来たりの試行錯誤の思考の過程である。
もちろん人は、変わることのできる生き物である。考え方も刻々と変化する。
そうした矛盾や葛藤をも抱えて生きていく。生きているといろんなことが起きる。
汚職、もみ消し、不倫などなど。
いろんな諸問題を絡めつつ、中津留の思考が語られる。
中津留の脚本提供作品だけではできないものがトラッシュマスターズの公演にはある。
中津留が俳優たちを演出することによって、独特なトーンを作っていく。
そのトーン形成のために「駅前劇場」の広さがちょうどいい。
心の中の痛いところに分け入っていくことを同時体験できるような
環境がここにはある。
開演2日目だったので、俳優たちの演技がやや硬い印象があったが、
劇の後半になっていくとそんなことは気にならなくなってくる。
そして、この会社はどこへ向かっていくのかという対話がなされながら
私たち観客もともに考える。
結果、自分たちの未来のことについても考えることになる。
参院選が終わり、与党は衆参両院で3分の2以上の議席を確保し、
これから都知事選が始まる。フランスのニースではトラックを使ったテロが起き、
トルコでは軍のクーデターが起きる。
そんな時代に「分かり合えないこと」を前提として、
何とか分かり合おうと対話を続ける努力をしようと考える
中津留の純粋な想いが強く伝わってくる。
その純粋性ゆえの気恥ずかしさや稚拙さを、「寛容さ」で受け容れたい。
7月24日まで。