NHK大河ドラマ「真田丸」の脚本家でもある三谷幸喜が
久しぶりに舞台に向けて書き下ろした、ストレートプレイの喜劇。
プロデュースはシス・カンパニー。
先行予約で随分前から購入したチケットを握りしめて三軒茶屋に向かった。
昭和の喜劇王「榎本健一」こと「エノケン」にあこがれた男の生涯を描く。
男は「エノケソ一座」と銘打って「エノケン」がやっていたことと同じような
うさんくさい興行を行っている。
一座はエノケソ(市川猿之助)とその妻(吉田羊)、
座付き作家は菊田一夫ではなく蟇田和夫(浅野和之)、
そして彼らを支える運転手兼脇役兼、
小道具などの係をする熊吉(春海四方)の4人。
彼らがいろんな地方で興行を行う様子が描かれる。
当時「エノケン・ロッパ」は昭和の喜劇王と呼ばれ絶大な人気があったと聴く。
残念ながら彼らの活躍をリアルタイムでは知らないのだが、
小林信彦が「日本の喜劇人」などという著書で彼らのことを取り上げていたのを知っていた。
三谷幸喜は、過去の資料などをあたり、遡って彼の人生を追いかけたのだろう。
三谷さんが「エノケン」の人生を追った、その足跡が本作で登場する「エノケソ」の人生につながっていく。
三谷幸喜の舞台は、ストレートすぎてつまらない、という方もいらっしゃるが、
正面から正々堂々とこうしたストレートプレイの喜劇を見るというのも悪くない。
演劇を見るという原初的な喜びがある。
高いレベルの俳優と高い技術を持ったスタッフとともに練り込まれた脚本で
丁寧に稽古されたものを見ると
多くの人に届けることのできるコンテンツになるんですよ!
という、お手本を見せていただいたような気分になる。
メジャーになる前に小劇場演劇で実力を養った吉田羊の舞台での演技をはじめて見た。
吉田羊の存在がこの舞台を「泣かせるもの」としての側面をあぶりだす。
吉田のエノケソに対する愛情が豊かに描かれている。
偽物だろうとなんだろう私は「エノケソ」というその人を好きになったんですよ!
というメッセージが伝わってくる。
さらに「エノケソ」の「エノケン」に対する愛情が半端ない!
市川猿之助はエノケンと一体化し、エノケンとして生きたいと思っている。
それを応援する座付き作家と妻と熊吉。
ある種の「芸道もの」の作法がここにある。
「芸」というのは「芸能」でもあり「芸術」でもある。
その「芸」に生きた人と彼と彼らを愛するどうしようもなくたまらなく
愛おしい人たちが登場する舞台ともいえる。
また、本作では本当に東京サンシャインボーイズ以来ではないか?
三谷幸喜が俳優として登場している。演じるのは古川ロッパ?
太ったオールバックで眼鏡をかけたロッパの姿がいい!
昭和のいい男の見本のような姿だった。
吉田茂にも似た風体は今後の三谷さんの新たなキャラとなるかも。
エンディングのシーンがいい。
そして、本物のエノケンが熊吉に行ったことば
「そのまま前へ進め、そして壁にぶつかったら…」のセリフがいい!
そのココロは見てのお楽しみです。
上演時間1時間50分。12月26日まで。