金曜日、早退してこの映画を見ようとテアトル新宿に行ったら、まさかの満席!
その足で渋谷に移動しユーロスペースに行って見ることができた。
こうの史代の原作の漫画は家にあり、ずいぶん前に読んでいたのに
内容をほとんど覚えていなかった。
本作をみて、ああ、こんな話だったのか?と知る始末である。
こうのさんの絵はのほほんとしておりどこか優しい。
それは色使いにも反映されており、監督の片淵須直は
その世界観を忠実にアニメーション化している。
戦前の広島や呉の街を丹念に調べて再現したと聴く。
とても素敵な街だったことがわかる。懐かしく温かい街。
太平洋戦争でその街はことごとく破壊されてしまう。
昭和初期から戦後すぐまでの主人公「すず」の暮らしを丁寧に追っている。
日常生活の何気ない様子を丁寧に描いている。
人々がただそこに居て、生きている。
小さなことに笑ったり泣いたりする、すずとその周辺の人々。
すずの声を担当している「のん」の広島弁が本当にいい。
あの呑気な感じを出せる人はそうそういない。
「すず」さんと「のん」が一体化していき「すず」を愛おしく思う。
まるで娘や姪っ子を見ているような。
この映画を見ていると「健気(けなげ)」という言葉を思い出す。
生きていく力が決して強くない人たちが懸命に運命に翻弄されながらも生きていく。
海苔の養殖で生計を立てていた広島の子供時代。
夏休みにはおばあちゃんのところに遊びに行く。
すずが18歳になるころ、呉の軍港で働いている人のところに嫁に行くことになった。
この人のお母さんの足が悪く寝込み気味なの
で労働力としての嫁が必要だったのだろう。
すずは誰も知る人がいなかったこの場所で懸命に働く。
水を汲んで、火をおこし、薪を作っておくどさんに薪を入れ、
飯を炊き、味噌椀を作る。洗濯や針仕事、
そして段々畑で米や野菜を育てる。
そんな暮らしを続けるすず。
出戻りのお姉さんの「嫌味」にもめげず懸命に生きる。
しかし、戦争が始まり、呉での生活も厳しくなっていく。
配給される食糧が制限され、野草などをつまんで料理する。
さらに戦争が進んでいき、米軍の本土襲撃が激しくなる。
呉は軍港なので、戦火が激しい。
度重なる空襲に右往左往する街の人たち。
そして3月の大空襲のあったある日、すずに…。
すずは絵を描くのが本当に好きな子である。
子供の時のお絵かきから始まって、結婚してからも
紙と鉛筆があるといつも嬉しそうにスケッチをしている。
映画の中にアートフィルムとも思えるような実験的なアニメーションが描かれるシーンがある。
それがすずの落書きだったりする。その落書きが動き出すのである。
絵を描くということの喜びがこの映画の全身で表現されている。
そして昭和20年8月6日の朝がやってくる。
広島に原爆が投下され、8月15日戦争は終わる。
玉音放送を聞いたあと、感情を爆発させるすずの姿が悲しい。
すずは広島に行き、家族や親せきを訪ねる。
この映画のすごいところは見終わってからの余韻が長く長く続くところ。
「すずは、こまいのお。こまいのお…」という言葉が何度もリフレインされる。
いまも、このように、いくつかのシーンを思い出す。
見終わって、また見たくなる。
そんな映画です。上演時間130分。