Cucumber+三鷹市芸術文化センターpresents
愛知県の近くの過疎の町「下河辺町」が舞台。
東京に出て行ったのだが会社を首になって戻って来た男(金替康博:MONO)と
広告代理店に勤めていたその妻(千葉雅子:猫のホテル)。
金替の同級生で地元の役場に勤める永井(加藤啓:拙者ムニエル)。
永井は同級生の近藤(内田淳子)のことが好きで中学生の時から想いを寄せている。
その近藤が離婚して子供を連れてこの村に出戻って来た。
永井は今も独身のまま。
40歳を過ぎて独身のものは「たたら山」?に捨てられる!というこの地域の伝説がある。
先日NHKの番組でAIにこれからの社会問題について過去の膨大なデータをもとに
新たな視点を与えてもらうという特集で
「40代の独身の人が増えると将来、景気が悪くなり、国の負担が増え」
という大胆な仮説を提示した。「40歳代の一人暮らしが日本を滅ぼす」と…。
本作は現在を予見したものだったのか?
本作は作・演出の土田英生が過去に書いた作品、1998年に初演されたらしい。
この年、土田はOMS戯曲賞を「その鉄塔に男たちはいるという」で受賞した。
本作も岸田戯曲賞の最終選考に残った!
結果はナイロン100℃のKERAさんがお書きになった「フローズンビーチ」が受賞した。
20年ほど前は私が、また真剣に演劇を見始めた時期に重なる。
「フローズンビーチ」はその時に私に大きく影響を与えた一作だった。
この町で同じく役場に勤める土田英生(MONO)。将来は町長になりたいと思っている。
父親も町長だった。そして無農薬農業に取り組む専業農家の男(諏訪雅:ヨーロッパ企画)と
若手の農家の三男(神田聖司)。神田聖司は本作が2本目の舞台らしいが、とてもいい!
イケメンでかつ演技がこなれている。
上演三日目の公演を拝見したのだがきちんと稽古され、
しかもキャスティングされた俳優たちのレベルが高いこともあるのだろう
ものすごく自然に見える。
特に車で踊りの練習に行くのに誰の車に乗っていくのか?
を決めようとするシーンとかはまさに「ああ、こんなシーンあるよなあ!」という感覚。
その直後にバツイチの内田淳子に向かって独身の役所に勤める加藤啓が真剣に将来のことについて告白する。
その後の内田淳子の反応がいい!はにかみながら、加藤に話す。
しかし現実はいろんな事情があって簡単に物事は進まない。
その複雑で面倒くさい現実を土田はひょうひょうとしたセリフを通じて紡いでいく。
映画監督の溝口健二は徹底したリアリストだった、と言われている。
土田も同様のリアリストなのでは?
リアルに人々を見つめるところから生まれたものがそこにある。
若き土田英生が著した本作には、そのような現実を徹底的に見つめた強さがあった。
それを、今回きちんとキャスティングされた俳優たちがきちんと稽古した状態で演じている。
しみじみとココロに染み入る1時間50分だった。8月6日まで。その後大阪公演。
ちなみに主宰のCucumberはまさに「きゅうり」。
きゅうりの旬である暑い夏の三鷹はこの日
お祭りが行われており、まさにきゅうりの一本漬けなどが売られていた。