学生時代。丁度、祇園祭の頃、四条河原町の書店「駸々堂」で
村上春樹の小説「風の歌を聴け」を購入した。
夕方、日が暮れる頃、自宅に戻って、勉強部屋で一気に読んだことを覚えている。
そして、それからすべての村上春樹の小説は、僕の座右にいつもある。
こんな出会いはそうそう、あるものじゃあないけれど、
そんな時代があったなあと懐かしく思い出す。20歳の頃だった。
学生時代に通った夏の本屋さんを思い出す。
灼熱の屋外から、エアコンの効いた書店に入って火照りをクールダウンさせながら、
紙のニオイを感じ、活字が僕を誘いかけてくる。
「駸々堂」は倒産し、阪急電鉄系の「ブックファースト」に名前を変えた。
そして、その向かいにあった、「丸善・京都店」も閉鎖。
梶井基次郎が檸檬を置いた書店ももはや存在しない。
そんな中、久しぶりに京都に行って、京都らしい素敵な書店に立ち寄ることが出来た。
烏丸御池で会食があるということで、四条河原町から錦市場を抜けテクテクと歩きながら
向かっていた。その途中に「大垣書店」はあった。
1階の天井の高い書店。天井は剥き出しである。そんなに大きな書店ではない。
品揃えも特に特徴的なものはない。
全ての人に向けてバランス良く揃えられている書店と言える。
しかしながら、新宿の紀伊国屋書店のような混雑のカケラはない。
気持ちよく書棚と書棚の間を回遊できる空間と余裕がそこにはある。
「INVITATION」や「文芸」をパラパラっとめくったり、
吾妻ひでおのマンガを覗いたり、池田晶子の新刊をめくったりする。
特に何を買うというあてもなく知識の海の中を探索する。
身体全身で活字の世界を感じる。あたりまえだ。そこは書店なのだから。
書店でなかなか見つけられない本を「アマゾン」などで検索して注文するということも、
もちろん意味のあることだと思う。
しかし、何のあてもなく、書棚の中を彷徨いつつ、新しい発見をしようと
僕の中の感覚のどこかが捉えようとする。
そのアンテナにひっかかるような書籍などの配置が出来ていると、
僕たちは一生の出会いをすることになるかもしれない。
ここの本屋さんはそんな予感を感じさせる書店だった。
集英社文庫のコーナーで「蒼井優」が、出ている、長いCM(多分2分くらい。)が
繰り返し流されていた。
映画「はちみつとクローバー」のスタッフの手になるものだろう。
ある美大の男の子と同級生である「蒼井優」との、
文庫本にまつわるラブストーリー。
同じ本を読むことでココロが共鳴することってきっとある。
同じ感動を分かち合える。
その感覚が確実に伝わってくる美しくも切ないコマーシャルフィルムとなっていた。
その文庫本は村上龍の「SIXTY NINE」だった。