渡辺考ディレクター。このNHK福岡放送局のディレクターのしつこさに感動した。
これでもかこれでもかと木村宅へ訪問し対話を繰り返す。
小川紳介たちが行なってきた基本的な取材態度をこれほどまでに見せ付けられると、
いま行なわれている、ドキュメンタリー番組の大半は何だったのかと思わざるを得ない。
取材対象と時間を出来るだけ共有して、
そこに自分が考えたり感じたりしたことを摺り合わせていく過程こそが
ドキュメンタリーではないのか?
木村も、ドキュメンタリーとは自分が出て行くことと語っている。
というか、木村にとってドキュメンタリーかどうかなどはどうでも良く、
木村が伝えたいことがあり、そこにRKB毎日放送の局員として、
機材やスタッフや放送する場所があったから番組を作って
流したということに過ぎない。
何本かの木村の制作したドキュメンタリーの一部が流されるのだが、
ものすごく自由に表現している。
アバンギャルドとはこういったことを言うのではないかと思う。
そして奥さんが凄い!
その人の全てを、母性をもって受け容れていく人というのがいるのだと思う。
そして、木村栄文は妻へ対して、感謝の言葉をきちっと口にする。
木村は数年前からパーキンソン病を患い、身体の自由が効かない。
ときどき、発作のようなものが起きて、全身が硬直する。
カメラはその姿を淡々と捉える。
パーキンソン病にありがちな状態らしいが、表情が消失する。
それは見ようによっては緊張を伴う。
渡辺ディレクターはそこから逃げない。
もちろん、木村の妻は真正面から夫に向き合う。
長女の「優」ちゃんは股関節の発育不全から、精神薄弱となった。
彼の作った番組「アイLOVE優ちゃん。」はその彼女の少女時代が丹念に描かれていた。
彼女の姿に、淡々とナレーションが入る。
「木村優ちゃんは精神薄弱児です。そして私の娘です。」と客観的に語られる。
愛情をもったカメラと客観的なナレーションのバランスが、
僕たちのココロのバランスを崩し、ググッと感動するものになる。
「優」ちゃんは34歳で亡くなる。
木村は脳に電極を埋め込む手術をし、
何とかもう一度ドキュメンタリーを作ろうとする。
そうして、「優」ちゃんへの追悼の番組を作ることになる。
タイトルは「優しい人」、病気で上手く喋ることが出来なかった木村が
取材のためのロケに行くと、見る見るはっきりと喋れるようになってくる。
人間が変われるということがきちんとカメラに収められている。
この、渡辺ディレクターのしつこさに感服。
そして木村栄文の作る番組の完成が本当に楽しみである。
手術前に、ひとの倍かかるかもしれないが、
番組をもういちど作って見たいと木村がカメラに切実に訴えかけていた
シーンが鮮明によみがえる。