小山ゆうな:演出、マルティン・ヘックスマン作、長田紫乃翻訳。
今年、世田谷パブリックシアターで上演された「チック」を演出した
小山ゆうなが手掛ける。「チック」と同様のドイツ演劇の戯曲。
そして、青少年を取り上げているところも同様。
「チック」の公演はとても評判が良く、
先日、小山ゆうなは第10回「小田島雄志・翻訳戯曲賞」を受賞された。
イナセナ企画の主宰はこの翻訳を手掛けた長田紫乃。
上演台本を小山ゆうなと一緒に練り上げていったと折り込みに書かれていた。
ある「山歩きサークル」に参加している子どもたちの親がブロンベルグ家に集まることになった。
それはブロンベルグ家(夫のミヒャエル:霜山多加志・妻のハネ:氏家恵)の
15歳になる娘マリー(井上花菜)のPCの中のある動画のことについてだった。
それは、山歩きサークルの行った山小屋で乱交パーティーが行われているのではないか?
と思えるような動画。1歳年上のクララの父親ルドガー(モロ師岡)。
そして14歳の少年であるカールの父親ヴォルフガング(今井勝法)と
若いパートナーのシュテフィ(長田紫乃)が遅れてやってくる。
ヴォルフガングは前妻と離婚しており、パートナーの女性が
毎回若くなっていっているらしい。
ヴォルフガングとミヒャエルは学校の同級生。
ヴォルフガングは実業家として忙しく飛び回っており、
ミヒャエルは堅実に家族と暮らしている。
ミヒャエルは学生時代詩作をしたり文章を書いたりして芸術的な行為に親しんでいた。
そして、舞台には登場しないが山歩きサークルにもう一人の男の子アマルがいる。
彼はパキスタンからの移民としてドイツに移住してきた。ムスリムのアマル。
頭が良く素直な青年らしい。
彼らが山小屋で何をしているのか?これは教育上いかがなことか?
などのことを大人が問題にして語りだす。
ワインを飲みながら。
ワインの度が越えて激しい意見の応酬になる。
多様な価値観の人たちがドイツに住んでいるということが良くわかる。
日本も早晩このように、さらに多様性が進化していくだろう。
そんな中私たちはどのようにふるまい生きていかなければならないか?
について考える。
ブロンベルグ家はカソリックの家庭。
そしてヴォルフガングはプロテスタントであり父親は新自由主義者でもある。
ルドガー(モロ師岡)さんは一見リベラルに見えるのだが
精神世界について研究しており、その純粋さと胡散臭さが同居する。
30人も入ればいっぱいになる劇場。観客席の有名人率が高い!
あんな俳優さんもあの劇作家さんも!
狭い空間で激しい意見の応酬が行われる濃密な舞台!
移民問題やLGBTなどの性の問題、そして青少年の性の問題などなどが扱われる。
まさに今の時代らしい設定。
今までの価値観を大きく変えていかなければならない時代がそこに来ている。
今の大人たちはその変化に対応するのに戸惑っている。
そのジレンマを克服するために「排斥」や「ヘイトスピーチ」に代表される
ポピュリズム的な考え方が受け入れられやすくなる!
しかし、作者は、青少年たち若者はそれを乗り越える価値をすでに持っているという視点で描く。
彼らは新たな時代を切り開く方向にすでに歩き出しているのでは?
という明るい希望に満ちた予感。
マリー(井上花菜)のエンディングのシーンが印象に残る。
小山さんらしいポップな演出感覚が活かされた素敵な小品。上演時間75分。17日まで。