あの名作の映画がどんな舞台になるのだろう!?と興味津々だった。
しかも演出はテレビマンユニオンのディレクターの合津直枝さん。
彼女は近年、舞台作品を多く手掛けておられることを今回初めて知った。
キャスティングに有名な方を起用できるのも
映画やTVなどの仕事を長くおやりになっており、
さらには、テレビマンユニオンという会社のバックボーンがあったからなのだろう。
テレビマンユニオンの創業者3人が書いた
『お前はただの現在にすぎないテレビになにが可能か』(1969年)。
私たちの世代でメディア業界に興味があったものなら知らない人はいない。
日本で初めての気骨ある反骨の独立系番組制作会社として1970年に設立された。
私はテレビマンユニオンから分かれたTV番組やTVCMの制作会社
「テレコムジャパン」(現:テレコムスタッフ)に新卒採用で入社した。
テレビマンユニオンが創業されて15年後の1985年のことである。
実は朝日新聞で吉田修一の原作が連載されていた時には、
気になりつつもまったく読んだことがなかった。
今回、本作を見て改めて原作の持つ人間に対する洞察の深さに感嘆した。
原作を読んでみようかな?という気にさせてくれる力強い舞台だった。
舞台は佐賀県。映画も佐賀でロケが行われたらしい。
吉田修一は長崎出身。
2000年に起きた佐賀を出発したバスジャック事件を覚えている方はいるだろうか?
本作でもこの事件の話が取り上げられていた。
映画「悪人」は李相日監督の熱量が
川村元気プロデュースのもとで静かに爆発した。
深津絵里と妻夫木君の逃避行が印象に残っている。
舞台での出演者は二人だけ、美波と中村蒼。
当日は中村蒼のファンなのかなと思える女性の観客がたくさんいた。
映画と大きく印象が違うのが美波と中村蒼との恋愛劇の印象が強かったこと。
愛が燃え上がるとはこういうことを言うのかな?と思いながら見た。
映画の「悪人」は生きていくことへのある種の諦めみたいなものが
通奏低音のように流れており、そこには生きる喜びみたいなものが感じられない。
身体をクローズアップショットで撮影していても、そこには身体感覚がない!
それが映画の魅力となっていた。
舞台は生身の人間なのでそこには身体感覚がある。
それが生きる希望を感じさせるのである。
なぜなら美波も中村蒼も板の上で確かに生きているから。
舞台の真ん中に灯台を暗喩するような柱が立っており、
それをうまく使って場面転換などを行う。
わかりやすくシンプルな演出によって
物語の骨格が浮かびあがる。
そのために音響や照明をかなり工夫している様子だった。
2人だけの舞台をまったく退屈させずに見られたのは原作の強さと
俳優の身体とそして技術者たちの努力のたまものだろう。
終盤で二人は刑務所に入れられるのだが、そこに事件の関係者からの手紙が届く。
単に手紙を読んでいるシーンがとても興味深い!
いくつかの手紙の文章の中に、人としての大切なことが描かれており戦慄する。
上演時間90分。4月8日まで。