草彅剛のことを知らない人はいないだろう。
彼がシアタートラムで演じる!
200人も入ればいっぱいになってしまう小さな劇場の
1か月以上のロングラン公演。
KAAT(神奈川芸術劇場)でも1カ月公演を行ったので
上演期間は2ヶ月以上になる。
当日券を求める人が並び左右の階段には
立ち見の観客が目いっぱい並んでいる。
そんな貴重な公演を見ることが出来た。
草彅さんのような超有名な俳優が出る舞台は
なかなかチケットが取れないのではなから諦めていた。感謝。
数メートル先に草彅剛がいる。共演は松尾諭。
彼も最近TVなどでよく見かける。
演出はKAATの芸術監督でもある白井晃。
白井さんは世田谷パブリックシアターとも縁が深く、
そうした関係もありこうした公共劇場主宰のコラボが完成した。
今回のような商業演劇ではない舞台に、草彅剛が登場するというすごさ。
そういえば、以前もトラムで演じていたのを思い出す。
2006年シス・カンパニーの「父帰る」「屋上の狂人」だった。
あれから12年。
本作はエンダ・ウォルシュの戯曲。アイルランドの劇作家らしい。
アイルランドの持っている独特なパンクな世界が拡がる。
イギリスやアイルランド、スコットランドの現代らしさを感じる。
映画「トレインスポッティング」などに見られるような
若者の姿を草彅剛と松尾諭が演じる。
彼らの想像する架空の村なのだろうか?
その村の風景や人物、動物が描かれた絵が壁一面に貼られている。
そして二人は音楽を大音量で流しながらものすごい運動量で
舞台をめいっぱい使って動き回る。
驚くのはその運動量。
汗だくになりながらものすごいスピード。
息を切らしながらセリフも喋る。
こんなに激しく動くことが出来るんだ!とその身体能力に驚く。
毎日、フルマラソンを走っているようなそんな感じなのでは?
1日2回公演のある日もあり、びびる。
草彅剛はこの役に完全になりきっていて
カーテンコールの時もその役のまま登場しているのを見て驚いた。
役が憑依するというのはそういうことなのか!と実感する。
空想か妄想なのか?それとも幻覚なのか?リアルなのか?
バリータークの村の話がどういう世界なのかがわからないまま舞台は進む。
決してわかりやすい舞台ではない。
解釈が多様になり、いろんな感想を持つことが出来る。
わかりやすいことを「善し」とする現代の風潮に反旗を翻して、
いろんな解釈が出来るものを提示してくれる。
こうした実験的な舞台を敢えて実行する勇気がいい!
多くの草彅剛のファンの方も来ているだろう。
そうした方々がこれを見て多様な解釈をし、
さらには草彅さんを初めとする俳優の身体や発声の強度を見て、
それを自らの身体で感じるという経験はとても貴重な体験となる。
難解な舞台から見えてくる「死」の影。
そして「死」を自ら選択しているのではないか?
と思わせる漠然とした不安。
そんなこんなが、凝縮されている。
1980年代にヒットした洋楽曲が彼らの強度に華を添える。
ABCの「THE LOOK OF LOVE」を久しぶりに聴いた。
そして、小林勝也は「死神」だったのか?
上演時間約100分。6月3日まで。
その後、兵庫県立芸術文化センター。
草彅剛の出演した関西テレビ制作のドラマ「僕の生きる道」
(橋部敦子脚本:彼女の最高傑作のシリーズでした)
「僕と彼女と彼女の生きる道」「僕の歩く道」の
「僕シリーズ三部作」を再見したくなった。