縁あって、貴重な公演を見ることが出来た。
中村勘三郎さんに書き下ろした戯曲を新たなキャストで作り替えたものらしい。
勘三郎さんはどこかでこの舞台を見てくれているのかにゃ?
阿部サダヲ、岡田将生、多部未華子、荒川良々…。とものすごいキャストが登場。
立ち見席もいっぱいになっている観客席の900人がこの舞台を見つめている。
チケットが約1万円なので一回の公演で900万円近い金額が収入となっている。
それゆえか?舞台の美術や照明、そして戸田京子の手掛ける当時の衣装、
そして、ヘアメイクの大和田一美が手掛けた膨大な日本髪やちょんまげを結ったカツラ群!
また本水が大量に劇場内に設置され、これでもかというくらい
美しい雪降らしなど!
贅を尽くすというのはこういうことを言うのだろう。
演劇公演が持つ芝居の非日常性や祝祭性を強く感じる。
女性ファンの姿が多く休憩時間のトイレの列が半端ない。
終演後、食事に行かれる方は上演時間の3時間半後くらいの予約がいいのではないでしょうか?
幕末から明治時代の開国に向けての混乱のとき。
東北の寒村から口減らしのために吉原で働くことになって江戸に出て来る多部未華子。
そして同じ山奥の村でマタギをしている二人の男(岡田将生と荒川良々)が
この機を狙って武士になろうと決意して鉄砲を携え江戸にやってくる。
この物語を紡いでいるのが新進の戯作者でもある阿部サダヲ。
阿部は戯作者として鶴屋南北先生(松尾スズキ)と河竹黙阿弥先生(ノゾエ征爾)を崇拝しており、
阿部の心象風景として、実際にこの二人の戯作者がことあるごとに登場し
阿部に意見するのである。
こうしたメタシアトリカル構造(劇の中で劇が進行していき劇とは何かを考えさせられる)を
ベースに舞台は進行していく。
舞台が本当に好きだった人たちの作品だな、ということが伝わってくる。
そして松尾はこの戯曲を紡ぐときにアドリブやくだらないギャグを交えつつも
人間のどうしようもない愚かさ醜さ、欲望などをきちんと描く。
この人が持つ負の側面を描くことこそが松尾スズキが
大人計画で延々と続けて来たテーマ。
貧困とそれに伴う人身売買、金と性欲、名誉欲やグロテスクなものに対する奇矯な情熱。
そんな奇妙奇天烈な感覚がないまぜになって豪華な舞台と技術を駆使して展開される。
松尾スズキはそこがぶれない。
昨年1月に拝見した長澤まさみが出演したミュージカル「キャバレー」を貫くテーマも
同様の松尾スズキの意思のぶれなさがある。
そんなアバンギャルドな世界観の表現を
シアターコクーンというハイソな劇場で上演することの意味は大きい。(W)
松尾さんはさらに調子に乗ってもっともっと負の側面の強い
エログロナンセンス満載の舞台を完成度高くしゃれた感じで伝えて欲しい。
多部未華子の発声がかわいい。よくとおる声で小柄ながら存在感と美しさが際立つ。
このように、品の良さと下品さが同居しているところなどは
まさに松尾スズキらしさではないだろうか?
芥川賞候補にもなっているマルチな才能の方なのに
動きが奇妙な俳優の松尾スズキ。
松尾さんを見たいと思って来ているのは私だけではないのでは?
上演時間休憩入れて3時間15分強!7月1日まで。