「かもめ」を韓国語では「カルメギ」というらしい。
チェーホフの「かもめ」を原作にして、舞台を1930年代の日本占領下の
朝鮮半島の田舎町を舞台に翻案されている。
朝鮮半島の19世紀末からの歴史的な事象が字幕を投影する壁に映し出される。
これを見ると日本と朝鮮との近代の関係が時間軸でわかってくる。
歴史を学ぶので一番面白いのは、各国で
その時期にどういったことが行われてきたのかということを
総合的に理解することなのではないだろうか?
日韓で共同制作している、演劇作品の名作がいくつかある。
平田オリザが戯曲を書き韓国人俳優とともに創作した「その河をこえて、五月」や
映画にもなって現在公開されている、鄭義信の最高傑作ではないかと思える
「焼肉ドラゴン」など。
日韓の共同制作によってより高い熱量が生まれたのではないだろうか?
本作も2013年に韓国で初演され、翌年の2014年日本での公演が行われた。
4年ぶりの再演である。
脚本・演出協力:ソン・ギウン(第12言語演劇スタジオ)
演出:多田淳之介(東京デスロック)
この舞台の評判がいいとTさんに聞いて最終日のチケットを手配した。
舞台は前後からはさんでみる格好となっており、
椅子やタンスやテーブルなどが地面に半分埋まったように見える。
TVモニターには、同じ舞台に設置してあるだろう
カメラを通した映像が映し出されている。
床には一面におびただしいほどの韓国と日本の新聞が敷かれている。
愛子役のチェ・ソヨンが真っ黒な衣装のチマチョゴリを来て登場する。
誰かがツイッターで彼女が伊藤歩に似ていると書いていたが、
ほんとうに若い頃の彼女にそっくり!
上手から下手へ!逆サイドの観客席から見た人は下手から上手へ、
時間が流れるように俳優たちも一方通行的に一方向へ動いている。
柴幸男の「あゆみ」などを連想させるそのスタイルは
「時間」は、二度と戻ってこないのだね!という
不可逆性を強く意識させられる。
「かもめ」を現代風に翻案して上演したいという作家。
それを演じる予定の作家の彼女。
そこに日本へ女優の修業に行っていた、作家の母親が東京の
劇作家を連れてこの街に戻ってくる。
そして、日韓併合でいっしょになった二つの民族が、
日本語と朝鮮語を併用しながらゆるやかな連帯をして生きていたのだが、
その後、日本は日中戦争を経て、太平洋戦争に突入する。
民族の独自性を強く打ち出し自国を強く意識する政策が取られるようになる
朝鮮語は禁止され、名前も日本名を使うように指示される。
そうして朝鮮半島に住む朝鮮人たちも戦争に駆り出されるようになっていく。
自国第一主義の風潮が近年強くなって来ている。
ここで描かれていることは過去の出来事で他人事としてとらえることは出来ない!
そうして、ここに登場するすべての出演者が死んでいくのである。
運命的な悲劇がそこにはあり、
朝鮮戦争を経て国家が分断されてしまった根本的な原因などが見えてくる!
ようやく統一というかすかな予感が見えてきたいま、
私たちは、この豊かな隣国といっしょになって
平和を維持する努力を続けなければいけないんだな!
ということが皮膚感覚で伝わってくる。
これこそ演劇体験が持っている大きな意味なのだろう!
上演時間2時間20分。
この後、三重、伊丹、さいたま富士見市での公演がある。