作・演出:福名理穂。「きっぽ」とは広島弁で「傷跡」のことを言うらしい。
舞台は広島の郊外の街だろうか?家族を描いた舞台。
近年、新たな家族の在り方を考えるコンテンツが増えている。
いろんな家族の在り方があっていいよね!というもの。
映画監督の是枝裕和さんはそのテーマで映画を撮り続けている。
山田洋二もしかり、そして小津安二郎も?
演劇でも岩井秀人の家族を基に描いた「手」などをはじめとする傑作シリーズがある。
本作は福名理穂の描く新たな形の家族を描いた舞台。
面白いのは同じシチュエーションが繰り返し演じられ、
1回目と2回目の感じがまったく違うようになること。
同じ設定なのに話者が語る「会話」の言葉が違うだけで
こんなにその後の展開が変わってくるのだ!ということを見せつけられる。
本作の最も特徴的なのはその構造。
こうした新たな表現の試みを行う場として演劇の表現は一番自由である。
その自由さは演劇表現のとっても魅力的なところなので
劇作家や演出家そしてプロデューサー含めた作りての方々は
世間のいろんな風評などに惑わされないで独自の道を進んで欲しい。
演劇にもいくつかの種類がある。
現実をすっかり忘れて演劇で表現されるエンターテイメントの世界に没入できるもの。
また人間とそれにかかわる関係などの深淵を描いて
観客に問題を提示し自分事として考えさせられるもの。
前者は劇場を出たらすべて忘れた!などと極端なことを言う方もいるが、
そうした方向のエンターテイメント!エンタメも突き詰めれば確実に観客のこころを掴む。
後者は人間とは?という考察の先にあるものを表現するために
やむに已まれずに出て来た芸術行為としての表現?
後者は、多くの人が好むものと言うわけにはいかないが、
少数の人たちに深く刺さるものになる。
どちらがいいという問題ではないが、本作は明らかに後者。
福名の描く「家族」のいくつかの仮説が舞台から提示される。
ミュージシャンの小田和正(オフコースのリーダーでした)のことが
大好きなシングルマザーの母親(川隅奈保子)と結婚した小田清一という名の男性(瓜生和成)。
彼もシングルファザーであり高校生になる一人娘(石渡愛)と二人家族だった。
カメラマンをしていた男は東京での仕事がうまくいかなかったのか?
広島の郊外にある川隅の家に再婚して引っ越してきて同居することになる。
川隅奈保子には2人の子どもがいる。
会社を辞めてしまい自宅でぶらぶらしながら仕事を探している長男(27歳)(橋口勇輝)と大学生の娘(板橋優里)。
川隅の姉(坊薗初菜)は、この家に一緒に住んでおり、地元の高校の教師をしている。
そして、この町に引っ越してきて新しい家族になった彼らがどのようになっていくのか?が舞台で描かれる。
しかも二回同じシチュエーションでまったく違う展開になっていくことが繰り返される。
それを延々と見ていると自然と「家族とは?コミュニケーションとは?」などということを考えさせられる。
間の作り方が独特で、それが時間の進行をゆっくりとしているように感じた。
しかしながら、こうした実験精神にあふれた表現を応援します。
上演時間85分。9月17日まで!