原作:アルベール・カミュ、翻訳:岩切正一郎、演出:稲葉賀恵。
稲葉賀恵と言うとアパレルのBIGIグループを創り上げたファッションデザイナーか?と思った。
「yoshie inaba」と言う本人の名前を冠した超高級なブランドが今もある。
調べてみたら稲葉賀恵は「いなば・かえ」さんと読むらしい。
文学座の若手演出家だそうです。
本作から新国立劇場の演劇担当の芸術監督が小川絵梨子に変わった。
二期に渡って担当された文学座のベテラン演出家でもある宮田慶子から
大きな世代交代。61歳から40歳へ21年もの若返り!
会社でこのように世代を超えて社長交代などが行われると
かなりのインパクトがある。
これから4年間、小川絵梨子が若い感性でどんな演劇プログラムを
構築してくれるのか楽しみ。ということで、しばらくの間は
時間の許す限り新国立劇場に行こうと思う。
実は、数年前に演劇の入場料の基本料金が税別の5000円から6000円に値上げとなった。
何度も劇場に通いたい人たちにはこの1000円の差がかなり大きい。(涙)
しかも、値段の安いB席はすぐに売り切れ、Z席は当日の朝早くに並ばなければ確保できない。
今回は新聞でこの公演の紹介記事を読んで1席だけ残っていたチケットを確保した。税込みで6480円。
電車代を節約するため新宿から歩く。
大体20分強で初台のオペラシティに到着する。
オペラシティ内にある交番の道路を渡った向かいに
立ち食いソバの「加賀」というお店がある。
出汁の味がとても好きなので時間がある時はここでそばを食べて舞台を見る。
かき揚げ蕎麦がおススメ。480円。
カミュと言えば小説「異邦人」。
実はそれ以外を知らない。
高校時代に読んだのだが鮮烈なそのテーマは、
その後のフランス映画の「フィルムノワール」などに通じるものがあるように思えるのだが、
いかがでしょう?
「異邦人」を書いた二年後にこの「誤解」という戯曲を書いた。
1944年。
実際に起きた事件をモチーフにこの戯曲を書いたとチラシに書かれていた。
ヨーロッパの田舎でホテルを営んでいる母(原田美枝子)と娘(小島聖)。
ここにやってくる宿泊者はチェックインするのだが、
決してチェックアウトすることがないホテル。
母娘が宿泊者を殺害して金品を奪いながら生活しているのである。
このホテルには従業員が一人いる。
小林勝也演じる執事はほとんどしゃべらない。
この母娘の行いを認めつつ働いていたのか?
いや、実は小林勝也は実際には存在していないんじゃないだろうか?
と舞台を見ていて感じることがあった。
そこに若い男性の一人旅の男(水橋研二)が宿泊したいとやってくる。
実は水橋研二はこの母娘の家族だったのである。
母と娘はそのことを知らずにいつもの犯罪を行おうとする。
母娘はそうしてお金を貯めて太陽の降り注ぐ南の街へ移住しようと夢見ている。
独特な閉塞感。
そして、膨大なセリフ。
特に娘役の小島聖のセリフ量が半端ない。
上演台本は堀切さんの翻訳のママなのか?
話し言葉と呼ぶには難があり言葉がなかなか入ってこない。
しかし、舞台全体から漂ってくる圧倒的な閉塞感と陰鬱な感じは伝わってくる。
そのアンビバレントな感覚に観客はとまどいながらも
その現場に立ち会い続ける。
俳優の強度がそれを救ってくれる。最後の小林勝也のセリフの意味がいまだにわからないままであるが
社会との完璧な切断を描きたかったのだろうか?
稲葉のシャープな演出は印象に残った。
日本語の戯曲の問題点がクリアされれば、さらに興味深いものになったのかも知れない。
しかし、小川絵梨子は1作目に何故この戯曲を選んだのだろう?
現在に通じる何かが見えたのだろうか?
上演時間1時間55分。21日まで。