作・演出:坂手洋二
最終日観劇。燐光群予約のペアチケットが7000円。普通に見ると1人4200円。
一人700円もお得。燐光群と女優の渡辺美佐子が一緒になって作る舞台。
2012年の「星の息子」2015年の「お召し列車」に続いての三作目らしい。
サイパンは日本軍の統治下時代に多くの沖縄の人が移住したことを、
本作を見て初めて知った。戦前に沖縄からからサイパンに移住して、
少女時代を過ごし、過酷な戦争を生き残り捕虜となって生き残った
女性を中心にこの舞台は展開する。その女性を演じるのが渡辺美佐子。
戦前の少女時代から、2018年の現在までが描かれる。
この島で、彼女の半生を描く映画を作るためにロケにやってきた撮影隊。
監督は米国に移住した元沖縄出身の方(シマンチュ)の子孫らしい。
監督は、ロケ隊と一緒にサイパンにやって来たのだが、
いったん帰国して不在している。
映画の撮影隊は、監督が戻ってくるまでの間、渡辺美佐子を中心に彼女の当時の記憶をたどりつつ
ワークショップ形式でこの映画のストーリーと関連付ける試みを行う。
大家族だった渡辺美佐子の家族は戦中に自害することとなり。
彼女と弟のみが生き残る。
弟は国粋主義者で自分の命を喜んでお国のために差し出しますと考えていた。
戦中のサイパンで実際に起きていたこと。
戦争前の平和だったサイパン。終戦前に玉砕戦となったサイパン。
バンザイクリフと呼んでいる北部の崖でのこと。
実は、バンザイクリフという名前ではなく現地に住んでいる方々が呼んでいた正式名称があること。
などなど。坂手さんが本作を書くために膨大な資料にあたっただろう事実が、
俳優の身体を通じてセリフとして発せられる。坂手戯曲のとても魅力的なところ。
この舞台を通してみることでサイパンの戦前から今に至るまでのことを知ることが出来る。
以前は、TVCMの企画で「白い砂」とあるとまずは、
サイパンロケ?みたいな時代があった。
撮影のためのビザの取得がしやすく日本から数時間で行ける。
そして照明機材が現地にあり大きなHMIライトなども用意できたなどの条件が整っていた。
しかも、砂が確かに白く、下田の海岸も白い砂でいいけど
梅雨の時期ならやっぱりサイパン!みたいな感覚があった。
しかし、戯曲のセリフの中でサイパンへの日本からの直行便がなくなったと聴いて愕然とした。
調べてみると2018年5月に成田からの直行便が、廃止になったそうである。
時代の流れを感じる。他の場所に行く人が多くなったのだろうか?
そしてサイパンに慰霊者の追悼に行かれる方も減っていると
セリフにもあったがそれも理由のひとつなのかと納得。
坂手さんは、映画愛にあふれており、以前もロケ隊を描いたものがあったが、
そこで実際の映画についてのことが語られるので映画ファンとしては嬉しくなる。
本作でも「カメラを止めるな」のエピソードやラース・フォントリアーの「ドッグヴィル」などの
映画などが取り上げられていた。
劇中で語られたセリフでうろ覚えなのだが
「戦争は未来へ引き継ぐイノチを断ち切るものだ!」
という意味のセリフが胸を打った。
坂手洋二のすごいところは沖縄問題を取り上げ続けておりその延長線上に
この「サイパンの約束」も存在することである。
同じテーマを繰り返し表現し続けるというのも芸術家の使命の一つではないでしょうか?
上演時間2時間20分。東京での上演は終わり、岡山・伊丹・愛知での公演が12月にある。