SPACE雑遊オープニング企画。
「組曲・二十世紀の孤独」と題して、燐光群+グッドフェローズがプロデュースしている。
三つの舞台が連続して上演される。
総合監督は坂手洋二。
このスペースのオーナー太田篤哉は、
有名な居酒屋「池林房」グループの経営者でもある。
本の雑誌の読者なら、沢野ひとし著「太田トクヤ伝」という本でも有名である。
本の雑誌社がまだ新宿にあったころ、
椎名誠を初めとする面々がときどき「池林房」で飲んでいたという話を聞いている。
このスペースは「池林房」と焼肉屋「長春館」の間にある。
本舞台は、松田正隆の戯曲を、鈴木裕美が演出している。
二人芝居。夫婦の話である。
妻を占部房子が演じ、夫を坂手洋二が演ずる。
占部はこの作品が前からやりたかったらしい。
劇場は、こじんまりとしている。多分70-80人も入れば一杯になるだろう。満席。
手前に六畳の和室。奥に三畳程度のキッチンスペースがある。
和室6・K3の1Kのアパートである。トイレはあるが風呂はない。
和室の真ん中に折りたたみ式のちゃぶ台。左右に古い箪笥が置かれている。
ここで台風の日の夜、遅くに帰ってきた夫と妻の会話だけで行なわれる舞台である。
日常の会話の隙間隙間から二人の関係や過去のことがらなどが、ほのみえてくる。
占部には姉がいたこと、そして彼女は電車の事故で亡くなったこと。
夫である坂手は姉とつきあっていたこと。
そして本当に姉のことが今でも好きだろうこと。
これらの事象がそこはかとなく伝えられ、いたたまれない哀しみに包まれる。
占部はそのことを受け入れつつも、
今はまだ、一人きりであるだろう自分というものを突きつけられて苦悩するのだ。
そして、これ以上一人になりたくないと希求する。
松田正隆の戯曲なので長崎県が舞台ではあるのだろうが、
今回は標準語で語られる。
以前見た、平田オリザが演出した
「月の岬」を思い出させるような構造を持った戯曲。
濃密な人間関係から生まれてくるものを、日常の中で淡々と描いていく。
松田正隆の力量に感心する。
最近の戯曲が難解すぎるだけに
このような舞台を見るとほっとする。
松田正隆は映画監督の故・黒木和雄監督に請われて、
映画「美しい夏キリシマ」の共同脚本を手がける。
そして、黒木監督の遺作となった「紙屋悦子の青春」は
松田正隆の戯曲が原作となっている。



映画「
紙屋悦子の青春」より。