台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
KERAの映画愛にあふれた作品。この作品は2016年にシアタートラムで上演され多くの演劇賞を受賞した。
そして3年後、劇場を大きな世田谷パブリックシアターに移しての再演。
上演2日目の2ステージ目を観劇。
事前にTさんにチケットを取っていただき今回は何と3階席の真ん中最前列。
2階席まで7800円、3階席は4800円。この3000円の差は大きい!
KERAは以前、無声映画に対する愛にあふれた舞台を創っている。
パルコ劇場で2003年に上演されたそれは
「SLAPSTICS」(スラップスティクス)というそのままのタイトル。
劇中にハロルドロイドやマルクス兄弟のものと思われる
「スラップスティック・コメディ映画」が映写されていたことを思い出す。
本作はKERAがウッディアレンの傑作「カイロの紫のバラ」という映画に
インスパイヤされて創作されたらしい。
舞台は「梟島」という架空の島。独特な方言がMONOの舞台を髣髴とさせる。
時代は1930年代。
日本が戦争に突入せんとする直前の奇跡のような素敵な時代を描いている。
主演の緒川たまきにぴったりの時代設定。KERAの妻でもある緒川さん。
KERAの舞台ではMOGAの役や大正ロマンの時代の役などを
これまでも多く演じておりまさにはまり役。
そして緒川さんと同じく主演の妻夫木聡。
妻夫木さん目当ての女性ファンがとてもたくさん来場されていた。
よって休憩時間の女性トイレは長蛇の列。
この島に住む映画の大好きな緒川さん。毎日のように映画館に通って映画を見ている。
週替わりで上映する映画が変わっていったあの時代。
TVがない時代の最大の娯楽の一つだったのではないだろうか?
本作を見て最も印象に残ったのは、私たちは映画を見ることによって
日常の大変なことや苦労などを忘れさせてくれ、魂が救われていく。
その想いが全編に貫かれている。
銀幕をじーっと見つめて想像の中で精神が羽ばたいていく!
それは、演劇も美術も同じなのではないだろうか?
TVドラマや漫画や小説も同じ。
多くのエンタメ作品・同じ意味での芸術作品にはそのようなチカラがある。
私も何度も映画や演劇に救われていると実感している。
だからこそ今もこうして生きていられるのかも知れない。
こうしたものにもし触れられなくなったら、禁止されたとしたら、
私は果たして生きて行けるのだろうか?
多分、すべての観客が持っているだろうこんな気持ちを
KERAはロマンチックコメディの仕立てにして私たちに提示してくれた。
プロジェクションマッピングの精度と映像が素晴らしい。
今回、初演と劇場の大きさが変わったのでスタッフは一から創作しなおしたのではないだろうか?
上田大樹の手になる映像が素晴らしい。
KERAは上田さんに何年も映像作品を託している。
そして今や上田さんは「いだてん」(NHK大河ドラマ)のオープニング映像を手掛けておられる。
音響の水越さんとも長い!
衣装は伊藤佐智子さんの手になるもの。伊藤さんはTVCMの世界では
超大御所の有名なスタイリストで、特にオリジナルのデザインで自ら服を制作することが多い。
その才能が今回の1930年代を舞台にした設定に生かされている。
映画から出て来た男(妻夫木聡)とその映画の役を演じている俳優(妻夫木さん二役)と緒川たまきとの淡い恋が描かれる。
エンディングシーンで、映画館で映画を見ている緒川たまき。
そこに遅れてやってきて、隣に座り一緒に映画を見る、ともさかりえ。
このシーンにグッと来た、そして泣けてきた。
なぜなのかは見てのお楽しみ。
日本映画が描き続けてきたある種の普遍的なテーマがここにある。
上演時間休憩入れて3時間25分。23日まで。その後、全国を巡回する。