「偉大なる生活の冒険」五反田団(@アトリエヘリコプター)
作・演出:前田司郎。12年前に書かれた戯曲。2008年に上演された時の感想がここに書かれている。
https://haruharuy.exblog.jp/7688422/
劇場は満席!通路にも補助席が出る。この劇場はいったい何人入れるのか?
と思うぐらいキャパシティーが柔軟である。
ということは当日にふらっと来ても何とかなる。
その自由さはとても演劇的ではないか?
当日券を必ず出してくれる公演は制作サイドの良心を感じる。
舞台は内田慈(うちだ・ちか)の住んでいるアパート。
そこに実家が東京にあるにもかかわらず居候をしている前田司郎。
前田は42歳。そこで働かずにゴロゴロしながらゲームをしたり漫画を読んだりしている。
ニートと言う言葉がもう使われなくなってきたが、
まさにそれを地でいくような生活。
内田は毎日、近くのスーパーのお惣菜売り場で働いている。
内田が仕事をして帰ってくると前田が居てゴロゴロしている。
時々前田の住むこのアパートに前田の友人?のような、男(玉田真也)がやってくる。
そして他愛もない話をしながら一緒にゲームをする。
観客はそうしたやりとりをじーっと見ている。
その会話ややりとりの中から繊細な感情が沸き起こってくる。
ものすごく繊細。
しかし、そこから見えてくるものは切なく悲しい。
とぼけた笑いの感覚をまといながら切ない物語を紡ぐ。
五反田団らしい、前田司郎らしい創作。
前田には妹(新井郁)がいた。時々、前田が妹と暮らした時間が再現される。
前田が36歳の時という設定で描かれる。そして、妹は今はいない。
なぜ妹が亡くなったのかは語られない。
しかし、42歳のだらだらと過ごしている前田が持つ
ある種の喪失感みたいなものが伝わってくる。
大きな舞台では決して伝わらないだろうこうした繊細な作業を
積み重ねてこの舞台は完成したのだろう。
後半、玉田が結婚をするというので彼女(神崎れな)と一緒にこのアパートに引っ越してくる。
「引っ越し蕎麦」を持ってあいさつに来る二人。
しかし、このアパートは内田慈のアパート。
半分引きこもりになって働くことを避けて何となく生きている!
この姿、見ていて、自分もこうなるかも知れないな
という思いがいつもある。他人事ではない前田司郎の生活。
それが微妙に変化する姿が描かれる。
その繊細な変化を見るだけでいい。
内田慈が突然、家を出て行き数日返ってこない。
その時に前田にどのような変化が起こったか?
こんな、だらだらした舞台を見たくない!という人も多いかも知れない。
しかし、こうしたどうしようもない人を見て
自分の中にある繊細な気持ちを揺り動かすものが確実にある。
そして「しみじみとして」観客はアトリエヘリコプターを出る。
上演時間85分。8月5日まで。