原典:ホメロス(オデッセイア)、人生とは良く、長い旅に例えられる。
そして私たちはその途上で今を生きている。
今より前には記憶を伴う歴史があり、それ以降は予測がつかない未来が潜んでいる。
初めての場所に行ってドキドキするという経験は、
予測がつかないことがある場所だからなのだろう。
子供は初めて見るものがあふれているので好奇心で目が輝いているのは、
そういうことなのでは。
本作をみてそんなことを感じた。
ホメロスのオデッセイアをちゃんと読んでいないので
本作が原典をどのように翻案したのかはよくわかっていない!
しかし前川さんがこの数年考え続けていることが
本作でも物語と言う形式として語られていることは良く伝わってくる。
物語は古くから、例えば洞窟の中で私たちの祖先が将来の不安を打ち消すようにして
語られていたというお話を
村上春樹がイタリアの文学賞のスピーチで語っておられたことを
覚えている方もいるのではないか?
前川さんは神話的とも言える物語を通じて人類の歴史に潜む、
そして宇宙の歴史に潜む、大きく言えばこの世界の本質に潜むものに
フォーカスを当てようとしている。
その試みをどう受け取るかによって
本作の受け止め方は大きく変わるのではないだろうか?
ある少年(山田裕貴)を中心とした物語。
理論物理学者の母(村岡希美)と会社を辞めて
これから政治の世界に出て行こうとしている父(仲村トオル)を持つ少年。
幼馴染とともに久しぶりに自然の豊かなところでキャンプをするところから
この物語は始まる。
仲村が「資本主社会は終焉を迎えつつある、人間の欲望が肥大し続けることで
環境破壊がますます進むことに懸念し、今立ち上がらなければ!」
という強い信念のもと政界に立つ決意をしたのだった。
このようにセリフの端々に前川知大が
考え感じていることが挿入されていて興味深い。
そして、あるきっかけでキャンプ場から山田裕貴は別の世界に移動する。
そこは紀元3000年過ぎの世界。
人工知能を搭載したコンピューターがその場所を管理し、
そこには未来の人類?と思われる人々が活動している。
これを見て、これは、まさにアーサー・C・クラークと
スタンリー・キューブリックの創作した不朽の名作「2001年宇宙の旅」!
映画では、原始時代から2001年にワープしてそして
その宇宙からさらにワープしてモノリスがいる部屋に映画の主人公は移動する。
モノリスはHAL(この舞台でいうところのAIコンピューター:浜田信也)
の未来形であり映画では神と思われるような存在と言われている。
前川さんの作品では神は人間の意識から生まれたものであり、
実は私たちの意識は量子物理学などを媒介して生成されるものなのではないか?
というような仮説を考えておられるのかな?と思った。
私たちの持っている無意識的意識や第六感と言ったものは
そこから生み出されており
それは実はとても大切なことである、と
芸術家としての前川さんは予測されているのではないだろうか?
そういう意味で本作は演劇界の「2001年宇宙の旅」なのでしょうか?
ちなみに、この映画の原題は「2001: A SpaceOdyssey」である。
そして量子物理学のことについて学んでみたくなった。
奈緒ちゃんがかわいい!
https://irving.co.jp/talents/nao/
上演時間2時間。11月17日まで。