午前11時半開演・終演午後9時40分!
休憩入れて10時間10分にわたる超大作「グリークス」。
実は過去に蜷川幸雄さんが「グリークス」の上演を
シアターコクーンで上演されたことがあった。
それに行かなかったことを激しく後悔した記憶が、
ずーっと自分の中に残っていた。2000年のことだった。
「グリークス」は過去に日本では3回しか公演が行われていないらしい!
プロダクションに至るまでの数々の困難があるだろう。
上演時間の長さ、そしてそれをやろうとする演出家とそれを受け容れる
俳優がいるのかどうか?さらには、その上演形態を受け容れる
劇場があるのかどうか?などなどの多くの課題を乗り越えないと
実現できない。
演出家の杉原邦生さんと神奈川芸術劇場の芸術監督でもある白井晃さんとが
これまでに築いて来た信頼と二人の熱意の証だろう。
10本のギリシア悲劇などがないまぜになったと言われている「グリークス」
作者はイギリスの演出家ジョン・バートンと翻訳家ケネス・カヴァンダー。
三部で構成されるそれは「戦争」「殺人」「神々」という題名が付けられている。
ギリシアの哲学や学問そして演劇は、時間が自由に出来た
ギリシア市民がいたからこそ。
しかし、その制度を支えたのは他の場所から連れてこられた
「奴隷」の存在によってだった。
本作でも有名な登場人物たちが愛憎のはざまで葛藤する。
そこで描かれるのは子殺し、親殺し、近親相姦、同性愛、
そして戦争と生死などなど。
人間にとって普遍的なことは何年経ってもそうかわらないだろうことがわかる。
夫が不貞を働いたこと、
それ以前に腹を痛めた娘を殺されたことを恨んでおり、
夫のアガメムノンと彼が連れて来た愛人を斧で斬殺する
安藤玉恵演じるミュケナイ王妃のクリュタイムネストラ。
彼女に父を殺されたとして娘のエレクトラ(土居志央梨)は
兄のオレステス(尾尻征大)とともに母親とその愛人を殺す。
「正義」という名のもとに「復讐の連鎖」が繰り返される。
この状況は、今の世界もあまり変わっていない。
結局数千年が経過して人々が一見豊かになったとしても
その本質的なところは同じなのか!
しかし、作者は第三部の「神々」のところで希望を私たちに与えてくれる。
キリスト教的な思想が色濃く出ている。
今の世界はそれだけでは解決できないのではないか?
本作が創作された1980年代から40年近くが経過して
グローバルな問題を解決するためにはもっと大きな視点が必要なのかも知れない。
それには、東洋思想とイスラムの文化とキリスト教文化などの
純粋な部分に目を向けるべきなのかも知れない。
今、新たに「井筒俊彦」などに学ぶところがあるのではないか?
難解と思われる「グリークス」を如何にわかりやすく
ポップに伝えるかに苦心した杉原さんの演出が素晴らしい。
ラップミュージックやその他の楽曲や効果音がないまぜになり
途切れることなく続いていく。
それを感じるだけでも本作を見る価値がある。
能舞台を思わせる舞台美術に和の要素がふんだんに盛り込まれた衣装。
そして照明も相まって美しい世界がそこに立ち上る。
10時間10分後のカーテンコールでは演じきった俳優たち
そして音響などのスタッフ・演出家・観客たちが一体となって
ある種の達成感を共有した瞬間だった。
この経験は当面、忘れることはないだろう。
休憩が適度に入るので、まったく疲れません。
素敵な座布団も用意されています。
上演時間10時間10分(休憩全8回)11月30日まで。