作・演出:中津留章仁。
「駅前劇場」で見るトラッシュマスターズはいつも印象に残る。
本作もそれにたがわない公演だった。
公演前に劇団からメールが来て「コロナウイルスなどの感染症対策」を
念入りに取っていることがわかった。
劇場の換気を徹底しており上演中も空調で送風が行われている。
(ので、少し寒いです)
トイレでは洗浄剤を使って手洗い、
劇場に入場する時にはエタノールで消毒!
そして、何とマスクを劇団側が用意しており
マスクを忘れた観客に渡すと言うアナウンスが!
さらには、観客席は余裕を持って座席が組まれ
出来るだけ濃厚接触をしないようにとの配慮がなされている。
中津留さんは6月に感染症をテーマにした
舞台公演をやる予定と折り込みチラシがあった。
本作は日本でこれから本格的に始まる予定のIR(統合型リゾート施設)に
ついての誘致を巡る物語。
それを中津留は三世代にわたってのドラマにした。
時は202X年と1980年代、そして戦時中の1940年代の
三つの時代が並行して描かれる。
いつもの中津留節は健在で、みんな激しい議論をする。
時には感情を爆発させ、ののしり合いになったりするのも
トラッシュマスターズらしい!
中津留さんが常に描こうとしているのは組織の権力と個人との対比。
そこにお金が絡んでくる。
既得権益とか企業の利益、国益などと言うが、
いったい誰のために「益」を得るのか?という根本的な問いがなされる。
IRも国際的な会議やイベントの誘致などが目的と言われているが
それに併設する形で「カジノ」の運営が認められようとしている。
本作を見て知ったのだが、日本国では
刑法で日本国民と在日外国人は賭博行為が禁止されている。
ただし、公営ギャンブルというカタチでならば認可されている。
ではパチンコはどうなんだ!?と思ったら
劇中にもパチンコについてのことを語るシーンが登場する。
それによると遊戯ということで景品に交換するだけならいいのだが、
換金所があるということ自体が限りなくグレイなことらしい!
ということは「カジノ」の運営は民間企業が行うのであるから
日本人と在日外国人は「カジノ」に行ってはいけない、
というのが論理的に正しいのだが、実はそうなっていない。
何故このようなことになっているのか?
ということが本作では何度も問われる。
登場人物たちが賭博を止められなくて「ギャンブル依存症」となった父親や
競馬をなかなか止められない倉庫会社の管理職などが登場する。
また、そこで働く企業に忖度して何とか仕事を続けたいという派遣従業員。
さらには、新聞記者や商工会議所の人たちが登場してそれぞれの立場から
発言する。
1980年代には本四架橋をめぐる公共工事に関しての
土地の買収などのエピソードも描かれる。
昔から権益を得る人たちとそれによって今の生活を壊される人や
国家や組織の政策によって人生が大きく変わっていく人たちがいるのは「世の常」。
その「世の常」をもう一度、別の視点で見直してみませんか?
という中津留の熱いメッセージが伝わってくる。
最後には祈りにも似た言葉が発せられる。
怒りを通り越したその言葉は、今の国会答弁などを見るにつけても
私たちに多くのことを想起させるのではないだろうか?
今年の日本アカデミー賞の作品賞は「新聞記者」だった。
そのことは、この映画が「今の時代」を描いているという
大きな意義を選考委員たちが感じているからなのではないか?
そういう意味においても本作は
今、見るべき演劇作品なのでは?
上演時間2時間40分(休憩なし)3月15日まで。