アンドレイ・ソクーロフ監督。ロシア人の底力は凄い!先日、「ポアンカレ予想」を証明し、
フィールズ賞を受賞したロシアの数学者グレゴリー・ペレルマンの記事が面白かった。
彼は、これまでの受賞者の中で初めてフィールズ賞を辞退した。
文学・舞台芸術しかり。ロシア恐るべし!
「エルミタージュ幻想」という映画が彼の監督作品とは知らなかった。
エルミタージュ美術館。一度でいいから行ってみたいなあ。
ソクーロフのこの「太陽」という映画は歴史4部作のうちの一つであるらしい。
理由はわからないが、まずアドルフ・ヒトラーとスターリンを主役にした映画を作った。
そして、今回は昭和天皇が主役である。
そして4部作の、最終章として、ゲーテの「ファウスト」をベースにした映画を作るらしい。
この4部作の関連性は何なのか?
何故、最終章が「ファウスト」なのか?知っている方がいたら是非、教えてください。
「国家」と「人間」と「神」?
この映画は撮影監督も、ソクーロフ自身が行なっている。
トーンが独特。同系色で色彩を極力抑えたトーンにしてある。
そこから独特な雰囲気が醸し出される。
特に、スタジオセットでのトーンコントロールは徹底されている。
ロケーション部分は現実的な制約もあったのだろう。
但し、建物の薔薇の木々の前で写真を撮るシーンは圧巻だった。
そして鶴がそこに居る。
ソクーロフの想像からこの絵が作られただろう事は推測できる。
しかし、鶴がそこに居る存在感は
誰も予想していなかったことじゃなかっただろうか?
まるで、日本画の風景のように。
ロシア動物園が協力のクレジットに記されていた。
ロシアでは撮影のために動物園の動物を貸し出してくれるのだろうか?
昭和天皇を演じたのがイッセー尾形。
独特の仕草や、発話の仕方が画面に目を釘付けにする。
ほんとうに、口をもごもごさせながら時には大きな声で、
時には囁くように話す。
侍従長は佐野史郎。彼のクールな演技がいい。
これを見ると、戦前から戦後にかけての昭和天皇は
圧倒的な孤独感の中にあったんじゃないかと思わせる。
誰もが敬いはするのだが、もちろん「神」として称えられていたのだから、
それは仕方がないことなのかもしれない。
しかし、これは、昭和天皇が望んだことではないこと
だろうことは明らかだ。
よって、イッセー尾形演じる昭和天皇は「人間」であるということを
言葉を選びながら周囲のものに発言し続ける。
このことがこの映画の通奏低音として一貫して描かれている。
敗戦後、米軍の駐留舞台いわゆる進駐軍が昭和天皇を迎えにやってくる。
昭和天皇は燕尾服にシルクハットといういでたちでこれに呼応する。
進駐軍の用意した黒塗りの車に乗り込む。
当時の首相だった鈴木貫太郎と一緒に。
GHQの本部で、昭和天皇はマッカーサー元帥と会うこととなる。
このときは一人。通訳がそれにお供をする。
通訳はGHQがやとった日本人である。
昭和天皇はこのとき「死」を覚悟していたのだろう。
昭和天皇は流暢ではないが、正確で丁寧な言葉の英語を尽くして、
マッカーサーと向き合う。
画面の中が一部の隙もないような緊張感に満ち溢れる。
そうして、昭和天皇は「死」を免れたことを確信する。
彼は、天皇陛下から「欽上裕仁」になる。
いや、なりたいと願う。
この映画は「人間」を希求する一人の男の物語である。