「人類史」(@KAAT)
谷賢一:作・演出。音楽:志磨遼平(ドレスコーズ)
ユヴァルノア・ハラリの「サピエンス全史」を読んだ方はいるだろうか?
人類の原初からの歴史をひも解いて現在・そして
未来への仮説までここまでマクロに拡げて物事を捉えてみました!
というとんでもない本。ここ数年の世界的名著だと思う!
私たち「ホモ・サピエンス」とはどういう生物なのか?
ということを徹底的に掘り下げその根っこにある要素を検証し教えてくれる。
そして、それが本作の題名にもあるように壮大な「人類の歴史」ともなっている。
先日台湾のIT大臣をされているトランスジェンダーでもあり
IQが180以上あるとも言われている「オードリー・タン」が
落合陽一とオンライン対談をしたNHKのEテレの番組を見た。
その番組の中に、オードリーへ向けて
「あなたは大きくなったら何になりたいと思っていましたか?」
みたいな質問があったように記憶しているのだが、
それにオードリーは「ホモ・サピエンス」と答えていたのが
とても印象的だった。
そして本作を見てオードリーが「ホモ・サピエンスです!」と
答えた理由が何となくわかるような気がした。
本作は二幕からなる。
第一幕、一場は200万年前、そして二場は7万年前。
ここで始めてコミュニケーションが生まれ、集団が形成される。
三場は7年前の続き、集団生活の中から絵画などの文化が生まれてくる。
そして四場。1万年前。言葉が生まれ文字が生まれ社会が形成され、
農業革命が起き、食料の保管保存が出来るようになり
富が蓄えられるようになる。
そこから格差が生まれ権力が生まれ同時に奴隷制度などが生まれてくる。
その苦しい生活の中から宗教が生まれてくる。
と同時に集団を統治する権力構造が生まれてくる。
ここまでが一幕。
一幕目はイスラエルの振付師:エラ・ホチルドのダンスなどの
身体表現が中心となる。言語がなくても身体で何かが表現できた時代。
生身の肉体の持つ説得力は大きい。
それは私たちがコロナ禍で実感したことのひとつなのではないだろうか?
ここまで65分。約199万年を65分で描く。休憩20分。
二幕のタイトルが「科学革命」1616年のヴェネチアの外れの
居酒屋兼宿屋がその舞台となる。
みんなが知っている「ガリレオ・ガリレイ」(山路和弘)などが登場する。
そこには教会の神父が居て、経験なカソリックの信者がいる。
一方、ガリレオを慕う学徒(東出昌大)や若き神童(昆夏美)もやってくる。
また投資家や船乗り、農夫や娼婦までが登場し
中世のヨーロッパの縮図となっている。
この時代にメディチ家が栄え、科学技術が発展し天文学が飛躍し
それにともなって航海術が拡がる。
ヨーロッパ人の考える世界は拡がっていき。
天動説の考え方はカソリックの聖書の教えと違うということで対立する。
大航海時代となり、そこに投資する裁定取引の仕組みが誕生し、
そこから株式の仕組みが生まれてくる。
現在の資本主義社会の萌芽でもある。
こうした様々な新たなことが一気に生まれて来た時代を描き出し、
テクノロジーや技術の進化で私たち「ホモ・サピエンス」の能力が
大きく拡張していることを表す。
私たちは「好奇心」を持ち続ける生き物なのかも知れない。
それが私たちをワクワクさせてくれる。
その「好奇心」を持った生きものに
先述した「オードリー・タン」さんはなりたかったのであり、
今まさに彼女はそれらのテクノロジーを使って
世の中をより良くしようとして生きている。
性善説の考えを持ち人を信頼するところから始めている「オードリー・タン」の
姿勢こそが22世紀に向けての「ホモ・サピエンス」としての
使命なのかもしれない。
そんなことを感じさせてくれた3時間だった。
千秋楽公演を観劇。カーテンコールが鳴りやまない。
個人的には第二幕が傑作!