「だからビリーは東京で」モダンスイマーズ(@東京芸術劇場シアターイースト)
2022年、初観劇の舞台。
2019年6月以来2年7か月ぶりのモダンスイマーズ新作公演。初日観劇。
自由席なので開演の30分前には多くのお客さんが芸術劇場のロビーに集まって来た。
整理番号順に入場。モダンスイマーズの公演はいつも入場料を安くしてくれている。
本公演も3000円!小劇場でも破格の価格設定。座席は満席。
舞台は2017年の11月。一人の大学生(名村辰)が
ある劇団のオーディションを受けにやってきたシーンから始まる。
経済学部の3年生だったか?は、ミュージカルの「ビリーエリオット」を見て感動し、
劇団に入って役者をやってみたいというがむしゃらな思いで
この劇団がオーディションをしていることを見つけて、劇団公演を1回も見たことがないのに
オーディションにやって来た!という設定。
「ビリーエリオット」は、映画「リトルダンサー」がヒットして、
その原作者であり監督が新たにミュージカル仕立てにしたもの。
映画自体は2000年に公開された。
ミュージカルの日本公演は調べたらまさにこの大学生がオーディションにやって来た
2017年に上演されている。
そして、新たな劇団員が加わった劇団は作・演出の能見(津村知与支)を中心に
新作舞台の稽古が始まる。しかし、なかなか進まない作家の筆。
作・演を鼓舞して盛り上げる劇団員たち。
それを通して彼らの関係性が見えて来る。
そして時間とともにその関係性は変化していく。
子どもの頃から一緒だった同級生の久保乃莉美(成田亜佑美)と山路真美子(伊藤沙保)
はこの劇団を立ち上げたメンバー。子どもの頃から「まみのり」と呼ばれいつも一緒。
でも実はお互いに思っていることがあって…。
感情の差異を通して気持ちのすれ違いや違和感を描くのはまさに蓬莱竜太の真骨頂。
そのヒリヒリとした感覚はモダンスイマーズの特徴でもある。
なかなか書けない作家。作家の作品を疑いだす劇団員たち。
そして…。
その後新型コロナウイルスの蔓延となり彼らの生活は一変し、
劇団員たちの関係性も大きく変化していく。
劇団員同士の恋愛関係なども描かれ、出会いや別れなどが当然描かれる。
短いシークエンスを積み重ねるように2017年から4年以上にわたる時間経過が描かれる。
そして、この物語は、実は・・・。
メタシアトリカル構造と言うらしいのだが、そうした構成で
私たちにこの物語は提示される。
私たちのコロナ禍での暮らし。
それに翻弄された劇団員たちのあるリアルを通して私たちは
それぞれの市井の人たちのほろ苦い人生を追体験する。
どの劇団員のエピソードも自分のことのようであり友人や家族のことのようでもある。
蓬莱竜太の描く「リアル」な世界が私たちの心を揺さぶる。
大きな事件が起きるわけでもなく、それぞれにそれぞれの人生を抱えて
とにかく生きているということが伝わってくる。
演劇には人の気持ちを癒し救う効果がある。
お正月で公演がなく約2週間ぶりに見た演劇公演。
私はこうしたものを見ていないと死んでしまうのかもしれない。
同時にこんな舞台を見せてくれてありがとうと感謝する自分を発見する。
冒頭のシーンのオーディションを受けにやって来た、
演劇のことはわからないけどやってみたい!という原初的な気持ちこそが、
実は、ただただ演劇をやる理由なのかも知れない。
石田凛太朗役の名村辰に教えられているような気がした。
それは翻って、私たちにとってそのワクワクする気持ちを
いつまでも持ち得るか?を問われているような気がしてならなかった。
ほかにモダンスイマーズの劇団員の生越千晴、古山憲太郎、西條義将が出演。
上演時間1時間45分。1月30日まで。