「つきかげ」劇団チョコレートケーキ(@駅前劇場)
作:古川健、演出:日澤雄介
歌人、斎藤茂吉68歳の時。時代は1950年。たまたま東京に出張の用事があって
1泊延泊すれば公演が見られるので金曜日の19時からの公演にうかがった。
劇団チョコレートケーキで駅前劇場と言えば大正天皇を取り上げた「治天の君」という傑作を思い出す!
ヘビーな内容が特徴のこの劇団。
しかしながら、本作はほのぼのとした家族を淡々と描いている。
見ていて小津安二郎の映画やTBSの往年のホームドラマを思い出す。
「彼岸花」という小津安二郎の映画は1949年の作品である。
斎藤茂吉の68歳の晩年を描く。テーマは「どうやって老いに向き合うか?」というもの。
私も今、62歳なので他人事ではない。
1950年代と違っていまの60歳代は若々しいが、とは言え、私もこの年になると老いを感じるようになる。
膝が痛い、肩が凝る、たくさん食べられない、なのに体重は増える。
身体の柔軟性が衰え、そのような老いを感じてイライラしている
自分を見てそれが嫌になる。老いをどのように受け入れて生きていくか?
ということに向き合うことが現実問題としてある。
作者の古川健の新たな挑戦なのか。
斎藤茂吉は医師であり病院経営者であり歌人であり物書きである。
そんな家庭で生きる家族。音無美紀子が茂吉の妻を演じる。
あの時代には珍しい自由な生き方をしている女性。
良家のお嬢様として育てられ、何不自由なく育った娘の家に
斎藤茂吉が婿入りのような感じで結婚したらしい。兄弟は4人。
兄(斎藤茂太)は医師をしており大京町に新たな病院を始めた。
弟も医師をしている。山梨の病院を辞めて東京に戻って来る。
この弟はのちの北杜夫。「どくとるマンボウ航海記」などを高校時代に読んだ記憶がよみがえる。
姉はすでに嫁いでおり、時々金の無心にやってくる。
贅沢が見についておりいつも高価な着物を着ている。
一番下の妹は一緒に両親と住んでいて家事手伝いをしながら斎藤茂吉の面倒を見ている。
この一番下の妹が私は原節子に見えて仕方がなかった。
一緒に見た吉江さんは香川京子みたい!と、おっしゃっていた。
そして、ここに唯一家族以外の人間が登場する。山口という名の岩波書店の編集者(岡本篤)。
斎藤茂吉の担当編集者として斎藤茂吉の創作での女房役として献身的な働きをしている。
茂吉の妻と編集者の口はいつも反目しているように描かれているのが象徴的。
妻として、編集者として斎藤茂吉に寄り添う姿が静かに描かれる。
昔の大船調の松竹映画的な仕立てがあの時代らしさを強調する。
何気ない会話から見えてくる不安や希望。
淡々とした中に人生の様々な側面が見え隠れする。
それを大声で語らない。大声がないことで沁みてくるものがある。
後半、弟(のちの北杜夫)が船医として勤務しヨーロッパに向かうと決まったシーンから
どんどんと面白くなっていく。
未来への希望に満ちた次男と死を意識しながら老いに向き合っていかなければならない
斎藤茂吉が対照的に描かれて印象的だった。
上演時間2時間10分。
斎藤茂吉は1953年に享年70歳の生涯を終えた。
公演は11月17日まで。