京都の島原というところが置屋さんや、揚屋さんがあった
歴史的な場所だったことを知らなかった。
そのような場所は祇園というところだと思っていた。
島原はJR山陰本線で京都駅から二つ目の
丹波口という駅のあたりにあるらしい。
そこの老舗の置屋兼お茶屋さん「井筒屋」でのお話。
ここには数名の芸者さんがいて、料理場もあり、食事も出す。
この「井筒屋」の美術セットが素晴らしい。
特に感心したのは、帳場が真ん中にしつらえられ
背の低い衝立で仕切られ、調理場も玄関も見渡せるようになっていること。
ああ、そうなんだ、こうして田中絹代演じるところの女将は
お店を切り盛りをしてきたんだと感じる。
田中絹代と娘の久我美子がタクシーを降りて、
「井筒屋」に入ってくるところからこの映画は始まる。
東京で男関係に破れた久我は、失意の中、実家に戻ってくる。
久我は、最初実家の仕事を嫌悪しているのだが、
芸者連中たちの実際を見るにつけ同情的になっていく。
お嬢さんとして育てられた娘は、田中絹代が懸命に
ここの仕事をやってきたことによって稼いだことの
代償としてであるということになかなか気づかない。
この母娘の関係に、青年医師である中村雀右衛門が亀裂を作ろうとする。
田中と関係のあった医師は、久我のことが好きになり、
寝返ったあげく、田中から資金を頂こうとする。
田中は、青年医師にしがみつこうとする。
母と娘と青年医師との三角関係。
溝口はこのことをリアルなこととして、冷徹に描く。
しかしながら、結局ここ、島原では女たちが強く、
自分の足でしっかりと立って、前へ進み出す。
そこには男の関与は微塵もないのだ。
劇中の狂言鑑賞のシーンが入るのだが、
「枕者狂」といって、老いらくの恋の滑稽譚だそうであり、
本編での現実の映し鏡になっているところが
さらに心憎い演出となっている。