これは、篠井英介を見に行くための舞台である。
当然、客席には彼のファンと思われる人がたくさん来ており、
彼の一挙手一投足に敏感に反応し笑い声がおきたりする。
もちろん、僕が見る限りでも彼の魅力は十分に感じた。
素敵な役者だと思った。
お話自体も、なかなか興味深い.
ゲイである篠井は同性の恋人、橋本さとしと付き合っているのだが、
橋本はバイセクシュアルであり、奥貫薫との生活を選択することになる。
篠井は、長谷川博己との生活を始めるが、
長谷川が事故で早世する。
その後、独りになった篠井は子供を産む代わりに養子として、
非行少年だった黒田勇樹を受け入れる。
橋本は、奥貫と別れ、何故か篠井のもとに戻ってくる。
そんなある日、篠井がゲイであることを未だ受け入れられない厳格な母親、
木内みどりが篠井のすんでいるニューヨークのアパートにやってくる。
わりと、わかりやすい話で
物語の骨格がしっかりとしているので、
観劇からしばらく経っていても簡単に思い出すことが出来る。
ここには、いろんな要素が詰まっている。
同性愛、異性愛、親子愛、友人愛、などなど。
それらの要素がてんこ盛りで提示される。
上演台本作家・演出は鈴木勝秀。
さて、この舞台が鈴木の手によってさらなる新しい価値を
創出したのかどうかが見えなかった。
優れた、キャストと戯曲というのは理解できる。
しかし、それを追うことにいっぱいいっぱいになりすぎてはいなかっただろうか
ということが、僕が最初に感じたことだった。
高野しのぶが彼女のレビューの中で非常に評価していたので、
(
彼女の演劇レビューは量・質ともほんとうに凄い!)
興味を持って見に行ったのだが、あれあれ?
というのが正直な感想だった。
何故、そうなってしまったのかと考えるのだが、答えが見えてこない。
シンプルな舞台セットから始まるのだが、
そのシンプルさのセンスとでも言うのだろうかが
もっと日本的に工夫されても良かったのではないだろうかと思った。
美術はニール・パテル。
海外のものをそのまま輸入してくるのなら、
キャストも演出も全て海外のスタッフでやればいいのではないか?
などとさえも思った。
せっかく日本の素晴らしいキャストで舞台をやるのだから
パルコ劇場に合わせたアレンジを加えていないことが、
どうにもこうにも距離感のある舞台に
なってしまったと思えて仕方がなかった。