初ペニノ。作・演出のタニノクロウの稽古風景が、
NHK教育の芸術劇場で紹介されたのを見て、興味をもった。
タニノは広めのアパートに住んでいる。
舞台稽古はその自宅に美術セットと同じように建てこんで行う。
毎公演ごとにそのようなやり方をしているので、
部屋をいったんスケルトン状態にしてセットを作り直すらしい。
タニノクロウはそこに住んでいるのだ。
24時間寝ても覚めても目の前に舞台がある。
そういった環境で作った舞台とはいったいどんなものだろうか?
本作は、海辺の小さな街のアパートでの話。
舞台の左右に同じ形のアパートの部屋(6畳の1Kだろうか?)が
振り分けて作りこまれている。
下手の部屋には、漁師をしている中年も盛りをすぎつつある
45歳の男が一人で住んでいる。(僕と同い年か?・・・。としみじみする。)
漁師のタケさんのところには、毎日、漁師の若者やタケさんの甥っ子が
飯を食いにくる。それだけ。その微細なところから人情や機微が溢れ出る。
タニノクロウのアパートと比べると駅前劇場は大きすぎるのかもしれない。
商業演劇とはまったく対極にある演劇集団である。恐るべし。
ここには効率とか利潤という言葉は一切ない。
舞台下手のアパートには、小さな介護が必要なお婆さんが住んでいる。
介護士の女性が、下の世話や、食事の世話をしにやってくる。
あるとき、左右の部屋の人たちが出会うことになって・・・。
でも、大きなことはなにもおこらない。淡々と日々がすぎていく中で
ほんとうに些細なことがらが魂をやんわりと揺さぶる。
介護される老人を演じたマメ山田は文字通り小さな役者である。
小さいが存在感は大きい。瞬間的に記憶に残る。
彼女は小人症と言われるのだろうか?
米国だと「ミジェット」と呼ばれていたりする。
この舞台は実はもっともっと小さな空間で濃密に行われる
舞台だったのだろうか?
もしかしたら、本当はタニノクロウの自宅で
見たかったのかも知れない。