沖縄の名護に美ら海水族館というのがある。
沖縄海洋博の際に作られたものらしい。
その頃、伊豆沖で捕獲されてやってきた
バンドウイルカ「フジ」を中心とした物語。
このフジというイルカは実際に存在しており、
半ばドキュメントの感がある映画である。
松山ケンイチ演じる獣医がこの水族館に赴任してくるところから
この映画は始まる。自転車のシーンが爽快。
松山の乗ったロードレーサーと地元の女の子が乗ったマウンテンバイクが
追いつ抜かれつしながら延々と横移動する。撮影は笠松則通。
このシーンに惹き込まれた僕はそのまま
流れるように物語の世界へ入っていった。
イルカがふんだんに出てくるので、何故か楽しい気持ちになる。
そして穏やかな気持ちになる。
美ら海水族館の飼育係のスタッフ(坂井真紀・池内博之・利重剛)の
イルカたちに対する愛情の深さがひしひしと伝わってくる。
監督の前田哲は言葉でのコミュニケーションを越えた
身体的な行為がさらに強いコミュニケーションになることを知っている。
坂井真紀がプールに飛び込むシーンなどまさにそんな感じ。
フィジカルなことが人の気持ちを強く揺さぶることを
この映画で描いている。
同時に中学生役の高畑充希という女の子の自立の物語が
フジの再生とともに語られる。彼女のまっすぐな瞳が印象に残る。
彼女と母親との葛藤と和解が同時に進行する。
しかし多くは語られない。観客はそれを想像して物語を紡いでいく。
うまいなあ・・・。
そして、さらに、この映画の面白いところは
そこにブリヂストンの技術者がものづくりの職人として関与してくることである。
フジの人工尾びれの開発が同時に語られる。
最初から、簡単に、うまくいく筈がないのはわかっているのだが、
人工尾びれの開発の成功をめぐって葛藤が生まれる。
この問題は人間にも置き換えられる。
病気や怪我になった人に対してどのようにしたら
クオリティ・オブ・ライフ(QOL)が保たれるのかという課題が突きつけられる。
より良く生きるためにはどうすればいいのか?
フジは自ら、人工尾びれの装着を希望する。
何故?それは映画を見ればわかる。
より良く泳ぐことがイルカとしてフジとして
より良く生きることだということ。
そしてそのことがフジの自由を獲得できることでは
ないだろうかと思わせる。
実際に尾びれを切断したフジが登場し、そこに人工尾びれを装着すること。
SFXやCGでは表現できない現実の空気が
さらに強く僕たちの気持ちに語りかけてくるものとなった。
そして、ブリヂストンの技術者たちが
延々と改良を重ねていることに、日本のものづくりの原点を感じた。
この映画は7月7日に公開される。