見城徹が編集長をしていた頃の「月刊カドカワ」は本当に面白かった。
文芸と音楽の才能が活字の中で鮮やかに躍っていた。
80年代の「月刊カドカワ」は文芸誌らしからぬ文芸誌として、
僕たちにとって注目の雑誌だった。
その後、角川春樹社長が逮捕され、社長を退任した。
「幻冬舎」という出版社の15段の新聞広告を見たのはその後のことである。
まったく新しい出版社から
村上龍、五木寛之、山田詠美、吉本ばなな、北方謙三、篠山紀信
の六冊の単行本が出版されるというもの。
僕は、その記事を見て度肝を抜かれた。
この「幻冬舎」っていったいどんな会社なんだ???
何年か経ってから、角川書店を42歳でやめた見城徹という
編集者が何の資金援助もなく、6名の編集者(元、角川書店の編集者)たちと
始めた出版社だったことがわかる。
それ以降も見城は次々とベストセラーを出し、
業界のスーパースターとなる。
その彼の57年間の生き様を始めて記録したものが本書である。
友人の編集者がいる「太田出版」からこの著書を出している
というところが面白い。見城のシャイな性格を見るような気がする。
いろいろなところで書きためたものをまとめているので
同じ事実が重複しているところがある。
作家と付き合っていこうとする姿勢が強烈であり、
個性豊かな作家たちと命を削ってつきあってきた
彼の生き様がありありと伝わってくる。
いつも思うのだが、編集者はプロデューサーに似ていると思う。
アーティストと現実世界の、ビジネスとアートの中間にたって、
作家たちと関係を切り結び、高いレベルでコンテンツを
輩出していく能力が求められているという意味では同じだろう。
見城自身の文章も、力強く迫力があり、知的である。
なみなみならぬ作家たちとつきあってきたからこその結果なのか?
もともと、そういう男だったのか?
しかし、読み進めていくうちに、見城自身が仕事を通じて
どんどんと変容し成長していることの証ではないのだろうかと思うようになる。
大企業に入ってのうのうと日々を暮らしていくことも一つの選択肢ではある。
しかし、見城自身にはその選択肢はない。
日々、自らが変化し新しいことに挑戦しながらも、
作家たちととことん付き合っていくこと自体が
彼が生きていくということなのかも知れない。
読んでいて、この壮絶な生き方を真似してみようという者が
いったい何人いるのだろうかと思った?
しかし、ふと気づいたことがあった。
自分のやり方で見城徹のような
プロデュースをやればいいのだと。
見城の部下であり片腕である、設立メンバーの一人の
石原正康のドキュメンタリー番組「プロフェッショナル」を見た。
彼と見城とのキャラクターの違いが良くわかる。
そして、石原のやり方も一つのやり方であり。
一つだけの正解なんてないんだなと改めて思い知る。
本書中に様々な人たちと関係したエピソードが本当に面白い。
松任谷由実、村上龍、尾崎豊、坂本龍一、中上健次、
石原慎太郎、銀色夏生、重松清、吉村昭、などなど。
身につまされます。しかし、必読です!