丁寧に、丁寧に、作られた舞台だった。
その丁寧さは見るものに伝わってくる。
いつものペンギンと違ってわかりやすい。
その分だけ丁寧に作ってあるということが実感をもって伝わってくるのだと思う。
倉持裕の戯曲は重層構造をもつ。
深い意味をもった複線の台詞などが登場する。
まるで幻想文学的シュールリアリスティック推理小説的舞台
とでもいったらいいのだろうか?
そのシュールさのバランスが、
今回は丁度良いところでとどまっていたように思う。
前回公演「ワンマン・ショー」はシュールな側面を
極端にまでもっていったものと比較すると良くわかる。
そして、今回の舞台の丁寧さ、いや成功は、
いや驚いたことは、衣裳である。
作りこんだ衣裳ではない。
多分、ありものを借りてきたりしてアレンジしているのだろう。
坂井真紀がスタイリストの役なので当然と言えば、
当然なのだが彼女を取り巻く人たちの衣裳が洒落ている。
ぼくもとさきこのオレンジと赤を主体にしたロングスカートと
黒のVネックセーター、黒いソックスが、
坂井真紀のレギンスの上に白いレース状のスカートを履いた姿、
或いは、細身のジーンズに白い裾が長いシャツ。
その上に着ていたマント状の、ペパーミントよりも少しグリーンの強いニット姿。
そして長いロングシャツ状のパジャマなどなどが次々と思い出される。
また男優さんたちの衣裳も素敵であった。
特に、吉川純広、戸田昌宏などが着ていた衣裳の色使いが良かった。
衣裳の担当は、今村あずさ(SING KEN KEN)。
今回ペンギンの公演に初めて参加したスタッフだそうである。
そして美術が美しい。空からつるされた鳩サブレ、鎌倉のジャム、
そしてヨックモックのシガールというクッキーが
シュールリアリスム的な世界を構築する。
抜けはいつものペンギンの舞台背景である
青空が描かれている。
面白かったのが集合住宅の1LDKが舞台になっているのだが、
各部屋の壁が途中まで作られていて、
まるで住宅模型を上から覗き込んでいるような感じに見える。
奥の部屋は上半身だけしか見えないところもあり、
逆に見えないことによって、想像力を刺激させられる。
坂井真紀の独白から舞台は始まる。
鎌倉に行くということを語りだす。
20年以上前になるだろうか?
今の妻と一緒に暮らしていたころ。
そのころはまだ、結婚をしていなかった。
久しぶりに一緒に休めることになって
鎌倉に行ったことを思い出した。
生まれて初めて湘南電車に乗り、鎌倉の大仏を見て、湘南の海を見た。
旧いカメラ、ニコンのS4をもっていって
モノクロームの写真を何枚か撮影した。
そのときに撮った写真はいったいどこにあるのだろう。
写真は撮りっぱなしで放置され、
最近ではカメラを持ち歩くことすらなくなった。
そう、実のところ、写真機は妻が好きなのだ。
その、坂井真紀の独白から、この舞台は始まる。
夫婦間の独特な感情の差異が及ぼすあれこれが
複数のカップルによって表される。
その夫婦間に世間が入り込むことによって夫婦の関係が変化していく。
人が人のことをどう思うのか?
決して同じことは思っていない。
そのすれ違いが、何度も、何度も手を変え品を変えて表される。
何もそれ以上のことは語られない。
語らないことによって、観客には雄弁に語りかけてくるものがある。
そんな印象の舞台だった。
大阪公演での反応が楽しみです。