ニブロール結成10周年記念公演。
矢内原美邦は今回レベルの高いダンサーたちを集めて
完成度の高いダンス公演を成功させた。
以前、「3年2組」というOFFニブロールというプロジェクトで
ダンサーではない役者を使ってエンゲキダンスのような
公演をしたことがあった。
その時、矢内原は役者たちに対しての動きの指導が
これほどまでに難しいのかということを痛感したらしい。
そのこともあって今回はダンサーも慎重に選びぬいたと、
アフタートークで語っていた。
ニブロールは矢内原美邦の振付・演出だけでなく
各パートのアーティストたちが集団で行う作業である。
高橋啓祐の映像。矢内原充志の衣裳。スカンクの音楽。
滝之入海の照明。そして、伊藤剛のデザイン。
それぞれのプロが高いレベルで行う表現を集大成して
ダンスにしていくのがニブロールである。
今回、高橋の映像は特筆に価するものだった。
世田谷パブリックシアターのおおきな背景面と床面が
真っ白になっておりスクリーンの役割を果たすのである。
その大画面に記号的な無機的な映像が投影される。
映像というより模様のパターンのようなもの、
それが規則的に動いたり。スクロールしたりする。
音楽のテンポに合わせてあり気持ちがいい。
そこに、ダンサーたちの肉体がそれを上回るように主張を始める。
ときどき、映像の方がより主張したりする場面もある。
男女のペアで延々と踊り続ける様は圧巻である。
矢内原美邦の要求レベルは高い。
ダンサーたちの動きはシャープでキレが良くしかも速い!
あのスピードで身体を動かし続けられることに驚く。
ダンスを見ているとそれに同調してイメージの中で踊ってしまう。
ロミオとジュリエットというテーマから
分かちがたい二つのもののイメージが伝わってくる。
分かちがたいのだが一緒になれない。
その二つは離れ離れで存在し、
境界線を越えることは出来ない。
それは、いうなればこの世界そのものである。
その世界はシェイクスピアの時代から変わることなく、
限られたものを奪い合うことによって
人びとは戦いを繰り広げて来たのだという誰かの言葉を思い出す。
その裏に秘めたテーマを、力強いダンスを通じて乗り越えようとしている。
その姿がこの地球の境界線を何とか乗り越えようともがいている
人びとの姿と重なった。
日清のカップヌードルの広告コピーで「NO BOARDER」という言葉があったが、
まさに「NO BOARDER」を暗示させる、素晴らしい公演だった。