元同僚の安部さんが40歳過ぎて漫画家になった。
文化庁メディア芸術祭の審査員推薦作品に選ばれた。
その後、ビッグコミックの新人漫画賞受賞。
そのとき彼はベテランのCMディレクターだった。
受賞をきっかけに彼は会社を辞め、創作活動に入った。
最初「山本耳かき店」というちょっと色っぽい大人の漫画をかいていた。
何ヶ月かに一度というペースでそれは続いていた。
そして、暫くお休みがあり、「深夜食堂」が始まった。
編集の方から「食」をテーマにしたものをかいて欲しいということから
この漫画が始まったらしい。
「食」は読者に受け容れられやすいそうである。
しかし、安部さんの描く「食」は、
「美味しんぼ」などのグルメの頂点を極めるというようなものと
対極にある。
B級グルメの世界での
庶民の幸せがそこに描かれている。
ささいな食のこだわりを丁寧に描いている。
その連載が月に二回連載されるようになった、
ときどき「ビッグコミックオリジナル」で読んでいたものがついに単行本になった。
おめでとうございます!
40歳過ぎて漫画家になった安部さんの
45歳にしての単行本1冊目が刊行されたことは感動的な出来事であった。
「深夜食堂」は新宿のどこか?
24時から朝の7時ごろまで営業している。
わけありそうなおじさんが一人でやっている。
メニューはなく客と会話しながら出来るものが出される。
何が出来るのかは、聴いて見ないとわからない。
今は、その阿吽の呼吸みたいなものが忘れ去られてきている。
ここは、何となくこんなものが食べたいということも重要である。
でも、客がノーアイデアで来るときはさりげなく提案してくれる。
この主人のホスピタリティが凄い!
懐かしい食べ物がたくさん出てくる。
「赤いタコのウインナー炒め」「きのうのカレー」「ナポリタン」「ポテトサラダ」などなど。
そこに来るお客さんたちのエピソードが、そういった食事を通して、語られる。
それぞれの人生が悲哀に満ちていたり、
愛情に溢れていたりするところが顔を出す。
その人生は決して華やかなものではない。
そういった地味な出来事をきちんと描ける
大人の鑑賞に堪えうる40台の新人作家、
安部夜郎の単行本はしみじみとした慈愛に満ちている。