是枝監督の家族映画である。
三浦半島にある一軒の家が舞台である。そこは以前、医院をやっていた。
いまは、父親も歳をとり眼が見えなくなってきておりやっていない。
原田芳雄演じる医師は70を過ぎ、緑内障を患った。
妻の樹木希林が一緒に住んでいる。
そこにお盆なのか夏休みなのか?
長女(YOU)の家族と、次男(阿部寛)の家族が帰ってくる。
ただ、それだけ。
そこで起こる何げない出来事をカメラが淡々と拾っていく。
家族のお昼ごはんを作るのに樹木希林が懸命に料理をする。
なんとなく料理を手伝うYOU。
彼女はこの医院を二世帯住宅にしようと考えている。
YOUの自然体の会話が心地いい。
この家庭には長男が不在だということがわかる。
長男は海で溺れている少年を助けようとして自身が溺死してしまったことが
会話の中から語られる。
この映画を評して、是枝監督の小津安二郎監督に対する
オマージュと語っていたものがあった。
これは、現在の家族劇であり。
そのテーマは普遍的である。
家族がそれぞれの部屋で床に就くシーンがある。
そのシーンは「彼岸花」などの小津映画を彷彿とさせるものがあるのかも知れない。
としたら、それは、是枝監督とカメラマンの山崎裕の遊び心?
山崎さんはドキュメンタリーカメラマンとは思えない
美しく映画的な映像で今回の映画を撮影したように思った。
特にクローズアップショットがいい。
次男の阿部寛は妻と息子を連れて帰ってくる。
妻の夏川結衣は、子連れで阿部寛と結婚した。
阿部は現在、失業中である。
阿部と父親は反目し確執があるので
すんなりと打ち解けて話をするというわけにはいかない。
小さなエピソードのそれぞれによって自分の家族のことを思いだす。
大きな事件は起こらない。
過去にあった様々なことなどが会話によって語られる。
まるで平田オリザ率いる、青年団の舞台のようでもある。
様々な登場人物たちの生を感じながら映画は進行していく。
海の見える優しい風景がココロに染み入る。
医院の裏に住むおばあちゃんが心臓の発作なのか危篤状態になる。
原田芳雄のところに電話がかかってくるのだが、
彼は今、何をしてやることも出来ない。
救急車を呼んだ方がいいとアドバイスする。
救急車の前で原田は申し訳なさそうにおばあちゃんと家族に語るような、
語らないような口調で「すいませんねえ。」と語る。
何故かこのシーンにグググっと来た。
人によって感じるシーンが違うんだろうなと思った。
その様々な可能性を秘めた是枝監督の新しい家族映画の誕生である。