近未来の設定の奇妙な世界を描くのが得意な印象がある、
スロウライダー。
1月の「手オノをもって集まれ」も衝撃的な舞台であったが、
今回の舞台を見てその上手さと衝撃度の凄さが身に沁みた!
今回の舞台は2006年にこまばアゴラ劇場で行われた
公演の再演だそうである。キャストを一新しての公演。
作・演出の山中隆次郎の頭の中はいったいどうなっているんだろう?と思った。
舞台全体に緊張感が漂い、それはラストまで途切れることはない。
何か、奇妙な怖さが世界を覆っているのである。
その奇妙な世界を、観客の想像力を信じて描いていったことがとてもいい。
傑作である。
舞台は田舎にある製薬会社の研究室である。
人里離れたところで、ひっそりと研究活動を行っている。
いわゆる、バイオ関係の研究。
そこにいる研究者の一人がES細胞から人の臓器を移植用に作るという作業から
発展してヒトのクローンを作ろうと試みる。
それ以前に臓器移植は実行されたのである。
その人は日本では最も高貴な方とされ、そのことがタブー感を強調する。
その高貴な方への移植は成功する。
このことは秘密裡に行われている。
公にされることはなく、開発研究者の一人は本社に栄転となる。
残った研究者は自己の崩壊を始める。
自分の主張をするために、自己の存在をアピールするために、
ES細胞から新たなイノチを作り出そうとする。
そのイノチがどう間違ったのか特殊な成長を遂げてしまう。
まるでSF映画である。
その怪物は舞台上手にある鉄の扉の奥に施錠されて監禁されている。
その名前を「カギュウ」という「蝸牛」とは「かたつむり」のことである。
音を聞いていてそう思った。
最初に、あのナメクジみたいなねばねばした、
というような言葉が想像力を刺激した。
音だけで「カギュウ」を表現する。
「カギュウ」はあの方のES細胞を培養して受精卵とし、
牛の胎内にて育てられたものだった。
扉の中には「カギュウ」が街で捕まえてきた人間がいる。
「カギュウ」は人間を食べて生きている。
タブー満載で人間の感情のいやなところがたくさん出てくる。
見ていて気持ちのいい舞台ではない。
しかし、その緊張感で一時も目を離せないものになっていた。
「カギュウ」の捕まえてきて食べる人間は「価値のない人間」である。
とある男は言い出す。
社会に利益を生み出さないものは価値のないものとして
「カギュウ」に食べられてもいいという発想である。
格差社会の現実を見るようである。
人間の倫理観というものをそういった事を通して突きつけられる。
同時に企業の倫理観を問われることが並行して行われる。
「カギュウ」の特異な発達を危険に思った、研究所の所長は
危機を感じて、本社のコンプライアンス部署の人間を呼ぶ。
ここまで来たら、もう、ただではすまないという状況にまで陥ってしまっている。
「カギュウ」は既に数名の人間を食べてしまっている。
企業の人間たちはこの事件を封印しようと試みる。
まるで最近メディアで騒がれる企業の不祥事隠蔽事件
そのままの状況がそこに展開される。
そして企業人である彼らは、どんどんと間違った選択をする。
企業を守ろうとして行う選択だと彼らは思い込んでいる。
この二つの要素が交錯しながら物語は進行していく。
結局「カギュウ」はどうなったのか?
「カギュウ」とは人間の欲望の象徴なのかもしれないなあと見終わった後に思った。
来年2月のスロウライダーの新作もおおいに期待したい。