「あんぼん」
「ユニーク」な「アイディア」の「提案」のための「脳内経験」
という副題がついている。さすがコピーライター出身のクリエーターである。
この1行で本書の核心は言い表されているのだなと思う。
冒頭からいきなり核心を突いた言葉で語る。
なかなかに厳しい人だろうということも感じられる。
「選ばれない、アイディアは、ないのと同じ」
まさにそうである。特に広告クリエーティブの世界は確実にそのことが言える。
世に出てなんぼのものということを、時々忘れがちになる。
プレゼンを幾つ抱えていたって、世に出なければ、
評価されないし、誰も見てくれない。
しかし、山本氏は、それを解決できる答えがありますよということを
この中で論理だって語ってくれる。
情緒を一切排除した論理的な文章は読んでいて気持ちがいい。
そのためには「経験」すること。
「経験」は歳をとると自然と獲得できるというものではない。
ということで若くしても経験豊かになれる方法はたくさんあるし、
歳をとっていても自らの意志で「経験」を獲得しようという
努力をしてこなかった人には厳しい話だが「経験」は存在しない。
では経験とはどうやって獲得するのかという話である。
きちんとしたコミュニケーションを取ることによって経験は獲得される。
そのためには自らの頭で考え自らの言葉で語る事が出来ないと、
きちんとしたコミュニケーションを取ることは出来ないのである。
ものすごく単純なことである。
自分の頭でキチンと考え続けることによって経験は定着する。
多くの経験によって人は想像力が増し、
多くのシチュエーションや様々な人間関係のことを鑑みるようになる。
多くの選択肢を考えることが出来てくると
必然的にその中からの最高の選択肢を選ぶ事が出来やすくなる、
という話法である。
このことを、本書の中で山本さんは様々な言葉や事例を尽くして語られる。
さらに経験には二つある。「実経験」と「擬似経験」である。
「実経験」の本当に凄いところはネガにあるという話は面白い。
大変だったことの実経験の中からどうしたら回避できるのかを考えることによって
広告表現につながるという視線が面白いなあと思った。
「擬似経験」は主体的に経験がしやすいものである。
人生のかなりの部分を擬似経験していると言えるかもしれない。
本を読む、映画や演劇やスポーツを見るということによって自己を投影し、
様々なことを考える。どちらの「経験」も重要なもの。
しかし、そのどちらも「経験」という意味では同じである。
山本さんがこんな風に語っている。
「考えることは経験である。その経験が考えるきっかけになる。」
経験を獲得した後にアウトプットするための方法を語っている。
多くの物事の捉え方を考え、そこから様々な連想を使い
連関させていく中から答えは見つかるというもの。
山本さんはそれを「脳内アングル」と「脳内ツリー」という言い方にまとめている。
これは発想法の本である、広告表現ということを基本にしているが
多くのことに置き換える事ができる考え方。
最後に本書の一部を引用して終わる。
どんな、アイディアでも、選ばれなければならない。
→選ばれなければ、もともとなかったも同じ。
→選ばれないのは、(世間を、人間を、自分を)知らないから。
→知らないのは、経験していないから。
→経験は、意識的に増やせる。
→つまり知ることは、意識的に増やせる。
→経験を意識的に増やして、「経験データベース」とすればいい